1.世界の債券・株の価値、44兆ドル減
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2.リーマン・モーメント(リーマ・ンショックの瞬間)
トラス政権が23日に大規模な減税策を発表した後、インフレや財政悪化への不安から英国債利回りは急騰(価格は急落)し、イングランド銀行は前日に発表したばかりの国債売却の方針を延期して買い支えに走る事態となりました。
危機は瀬戸際だったとの見方があります。フィナンシャルタイムズは29日付で、英中銀に警告の手紙を送った運用期間による「買い入れ措置がなければ超長期債の利回りは7~8%まで上昇した可能性がある」と報道しています。
苦境に直面したのは、ライアビリティー・ドリブン・インベストメント(LDI=債務主導投資)と呼ばれる戦略です。
実際には、デリバティブなど複雑な取引形態になっていますが、ここでは、上記表の金利スワップについてみておきます。
金利スワップは金利を対象とするデリバティブ(金融派生商品)取引の一つで、同じ種類の通貨で異なる種類の金利(固定金利と変動金利など)を取引の当事者間で交換する(スワップする)取引です。金利スワップの代表的なパターンは固定金利と変動金利の交換です。
今回の危機の流れは、英国新政権が発表した減税を柱とした経済政策でした。英国の財政には元々不安があります。そこに財政を悪化させる政策の発表があったため、英国債が市場で大量に売られました。
その結果、英国債が急落、つまり長期金利が急上昇したのです。国債は価格が下落すれば、金利が上昇するという関係にあります。
英国の年金金は将来の年金給付を固定させるために、金利の変動をヘッジしていました。年金基金は保有している英国債を担保に金融機関から変動金利で資金を借入れます。そして、その変動金利と金融機関の固定金利をスワップします。こうして、固定された金利収入を得る契約をしていたのです。
金利が急上昇したので、金利スワップの評価損が膨らみ、年金基金が担保に差し入れていた国債の価値が急落。そのため、追加担保の差し入れ(マージンコール)を求められる事態となりました。
年金基金は追加担保のために、国債の売却を余儀なくされました。年金基金が国債を売却したため、さらに国債価格は下落、金利は上昇という悪循環に陥りました。金利の上昇に歯止めが掛からなければ、資金を捻出するために保有する債券や株式など様々な金融商品の売却を余儀なくされる動きが加速しかねない状況となりました。
たまらず、イングランド銀行が市場の安定に必要と判断すれば金額無制限で介入するという発表を行い、初日には10億2510ポンド(約1600億円)相当を買い入れています。
英投資協会によるとLDIの運用規模は20年時点で1.5兆ポンド(約240兆円)と巨大で、もしも破綻していれば、世界経済に甚大な被害をもたらす寸前だったのです。
しかし、トラス首相は大規模減税を柱とする経済対策については対策の骨格を変えない姿勢を示しています。そのため、減税策を強行する限り、国債の売りは止まらないという見方もくすぶっています。
3.資産バブル崩壊の本命は米住宅価格の下落
米国は株や債券以上に住宅価格の下落が金融危機をもたらします。米国が金融危機に至る前には住宅価格の下落が起きます。
銀行が、発行額面尾100%評価の資産にしている「住宅ローン担保証券:MBS」の下落があるからです。
銀行間で売買されているMBSは、多数の住宅ローンと国債の利払いと返済金を担保にして組成した、デリバティブ証券です。(ローンの複合組成証券)。株や債券のような公開市場はなく、銀行の店頭での取引です。
銀行間で保証保険のCDSがかかったものだけでも、8.8兆ドル(1230兆円)あります。(2021年末:BIS)
https://stats.bis.org/statx/srs/table/d10.1?f=pdf
リーマン・ショックの時のように、MBSの下落が、債務保証保険料のCDSの高騰を招き、CDSを引き受けた銀行が、支払ができなくなった時、第二のリーマン・ショックが起きる時でしょう。
MBSの下落ヘッジは、「MBSの価格を保証する保険のCDS」を取引相手の銀行から買うことです。MBSが下がらないときは、CDSを売って得た保険料(CDSの価格)は取引相手の銀行の利益になります。これも銀行決算の好調になっていますが、MBSの価格が下がると、暗転することになります。
MBSが下落すると、MBSを購入してCDSで保証料を払ってヘッジしていた銀行は保証料が急騰して資金ショートが起こります。
米国では、住宅価格の下落が始まって、半年ほどすると、複数の大手銀行に資金ショートの危機から、金融危機へと発展していく可能性があります。
ケース・シラー住宅価格指数は下落を始めています。2023年中旬に、MBSの下落から米国発の第二リーマン・ショックの可能性は十二分にあります。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】