ドル円為替を考える~購買力平価編~
為替レートは金利差、貿易・経常収支、潜在的な経済力などの多様な要因によって変動しますが、長期的な為替レートの水準を考える際には「購買力平価(PPP: Purchasing Power Parity)」を参照することが良くあります。
PPPとは「為替レートは異なる通貨の購買力が等しくなるように決定される」との考えであり、「一物一価」が成り立つことを前提としています。足下の市場実勢レートが1ドル156円前後で推移する一方、OECDが算出するPPPは2022年時点で94.935円ですから、大きく乖離しています。
1960年から2022年までの実勢レートとOECD算出のPPP(購買力平価)は以下の図の通りです。
2020年以降実勢のドル・円相場のPPPからの乖離が、ドル高・円安方向へ大きく進んでいることが分かります。PPPを簡単に説明すると、日本と米国など異なる国の間で、同じモノ・商品が国際的に同じ価格になるように為替レートが決定されると考えるということです。
例えば、リンゴ1個が日本で100円、米国で1ドルであれば、為替レートは1ドル=100円に決まるとされます。もし、為替レートが1ドル=100円のままで、日本のリンゴが110円に値上がりすると、日本では米国から100円(=1ドル)の安いリンゴの輸入が増加し、リンゴの輸入代金を手当するための円売り・ドル買いも増加する為、為替レートはドル高・円安方向へ変動します。
最終的に1ドル=110円になると両国のリンゴの値段が同じになり、為替レートの調整は終了します。この例からも分かるように、購買力平価ではインフレ率が高い国(この例では日本)の通貨が下落することになります。また、この例のように、商品の価格を直接比較して同じモノは国際的に同じ値段になると考えた為替レートを「絶対的購買力平価」と言います。
OECDのデータは2022年ですので、国際通貨研究所のPPPを参照すると、2024年4月1日時点で90.66です。同じ日の実勢レートは154.34円ですから、58.7%も乖離しています。
これはドルが過剰に買われていることを意味している可能性があります。その為、約60%の過剰評価、つまり日本から円で見た米国の物価は1.6倍は高いということです。
前述の説明からすると、米国は日本よりも高いインフレ率ですから、日本から安い商品が入り、輸入代金を手当てする為にドル売り、円買いが増加し、為替レートはドル安、円高に進むはずです。しかし、そうはなっていない。
原因は、日本を筆頭として、米国以外の国々のドル買いです。米国の株式市場には世界中からマネーが集まっています。日本は大量に米国債を購入しています。さらに、2024年の新NISAスタートからは、日本人による米国株の爆買いがあります。
PPPから考えると、ドルへの過剰流入からドルは過剰評価されていると見えます。
ドル円為替を考えるつづく…