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中国のウクライナ停戦仲裁案、欧米の批判回避の思惑~中国の思惑~【日経新聞をより深く】

1.中国のウクライナ停戦仲裁案、欧米の批判回避の思惑

中国外務省は24日、ロシアのウクライナ侵攻から1年の節目に中国独自の仲裁案を発表した。欧米による対中批判をかわし、緊張緩和につなげる思惑がある。主要輸出先である欧米との関係改善で、経済浮揚につなげたい考えとみられる。

24日に発表した仲裁案は12項目からなるが、これまでの中国の主張を列挙した感は否めない。ロシアとウクライナの「できるだけ早い直接対話」を呼びかけ、中国も関与する考えを示したが、具体的な仲介策にはとぼしい。

中国の外交担当トップ、王毅(ワン・イー)共産党政治局員はロシアのプーチン大統領やウクライナのクレバ外相らとの会談後に仲裁案を発表した。「停戦」を呼びかけ、「最終的に全面停戦を達成すべきだ」と強調している。核兵器の使用や原子力発電所への攻撃に反対を表明したものの、どこまで抑止力があるかは不透明だ。

このタイミングで中国が仲裁案をアピールしたのは、主要な輸出先である欧米の中国への印象の悪化がとまらないためだ。ブリンケン米国務長官は中国がロシアに殺傷力のある武器を輸出する可能性に懸念を示している。

中国側は否定しているが、中国はロシアと経済・貿易取引を続ける方針だ。軍事転用できる半導体や通信機器、ヘルメットなどがロシアのウクライナ侵攻を下支えしているのではないかとの西側の疑念は強まるばかりだ。ロシア、ウクライナ両国と友好関係にある中国は事態好転に向けて取り組む姿勢をみせる必要があった。

仲裁案にはひとつだけ、新しい要素が加わった。ウクライナ情勢の終局を見据えた「戦後復興の推進」の文言だ。国際社会が戦後復興を支援する措置をとるように促し、中国も「建設的役割」を果たすと強調した。中国政府関係者によると、すでに政府内でウクライナ経済の復興支援プランの検討が始まっているという。

中国にはウクライナ情勢への関与でグローバルサウス(南半球を中心とする途上国)の取り込みも進める思惑がありそうだ。

グローバルサウスの代表格とみなされるブラジルとインド、南アフリカは、中国、ロシアとともにBRICSを構成しており、もともと接点が多い。ブラジルは同国が中心となって中立的な立場で和平交渉を担う一部新興国によるグループの発足を提唱している。これらの国は対ロシア制裁に加わっていない点でも共通していて、中国は連携をとりやすいとみている可能性がある。

(出典:日経新聞2023年2月25日

2.中国とロシアの関係

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった翌日の2022年2月25日、中国の習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と電話会談を行っています。(中華人民共和国駐日本大使館

その日の午後、プーチン大統領は一時、部隊の動きを止める命令を出し停戦交渉に向かう兆しがありました。しかし、米国は同日、ウクライナに対して「だまされてはいけない」という警告を発しました。トルコでの停戦交渉が始まったものの、決裂。また、イスラエルの当時の首相ベネット氏も仲介役に乗り出し、プーチン大統領、ゼレンスキー大統領とも話し合い停戦への動きがあったものの、欧米とはまとまらず、今に至っています。

習近平氏プーチン氏は長く蜜月関係にありましたが、習近平としては、ロシアのウクライナ侵攻には反対です。なぜなら、ロシアの主張する侵攻の目的はウクライナに住むロシア系住民の救助にあるからです。中国もまた自国に多くの少数民族を抱えており、もしウイグルやチベット族が中国政府に虐待されているとして他国に救助を求め、他国がそれを理由に軍事侵攻する動きを見せたら、習近平は絶対に許すことはできません。そのため、軍事侵攻には絶対反対の立場をとらざるを得ないのです。

しかし、米国から制裁を受けている国同士としては、習近平氏はロシアに崩壊してもらっては困ります。欧米の制裁を一手に引き受けることになるからです。

そこで、中国の姿勢としては、経済的にはロシアを支援する軍冷経熱の姿勢を貫いています。

2022年中露貿易は1903億ドル(約24兆円)と前年比3割増え、2年連続で過去最高を更新しています。中国のロシアからの輸入の78%を占めるエネルギー資源に関して2022年統計で前年比54%も増加しており、対露輸出に関しては化学工業品が77%増、車両・輸送機器関連部品が47%増などとなっている。

(出典:日経新聞2023年1月21日

実際、対露制裁を行っていない発展途上国や新興国などの人口は全人類の85%を占めています。習近平氏は「人類運命共同体」という外交スローガンを軸に、その85%の国々を中国側に引き寄せ、非主要7カ国(非G7)系列側による新しい世界秩序を形成しようとしています。

インドは対露貿易は3.4倍に増えています。インドはBRICSにも上海協力機構(SCO/中露が中央アジア諸国と創設した地域協力枠組み)にも加盟しており、モディ首相はプーチン氏とも懇意です。そこで、習近平氏はユーラシア大陸を南北に貫く非米ドル経済圏形成を狙っています。ドル離れを加速させたい意向です。

3.中国の構想

この経済圏構想の西側諸国に対する盾となってくれている中央アジア諸国は特に重要です。反NATO(北大西洋条約機構)色の強い上海協力機構の中核を成す中央アジア諸国は、もともとはプーチン氏と良好な関係でしたが、ウクライナ侵攻には賛成していません。それを見て取った米国は、揺さぶりをかけています。

一時中露関係に微妙な空気が流れました。2022年9月に開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせ中国の習近平氏とプーチン氏の会談が実現しています。そこでは、中国の冷めた対応が目立つと報道されました。

◆プーチン氏「中国側の懸念は理解している」
 「ウクライナ情勢に関する中国側の懸念は理解している。われわれの立場を説明したい」。プーチン氏は会談で低姿勢を見せた。ウクライナへの「軍事作戦」を「崇高な使命」と説明してきたプーチン氏にとっては異例の対応だ。
 プーチン氏は「世界は急速に変化しているが、中国とロシアの友好だけは変わらない」とも強調した。しかし中国はウクライナで苦戦するロシアに巻き込まれ、国際的に孤立することを慎重に避けている。国内に少数民族問題を抱えており、ウクライナの「主権と領土保全」を尊重するべきとの立場も変えていない。
 英BBC放送は、プーチン氏が中国の「懸念」に言及したのは「予想外」とし、中ロは「永遠の親友ではなく、不平等な関係だ」と指摘した。

(出典:東京新聞2022年9月17日

ただ、これは芝居だったともいわれています。習近平を中心にウクライナ侵攻に反対する中央アジア諸国を結束させ、西側になびかないようにするのがその目的です。

一方、中国は実はウクライナとは特別な関係でもあります。旧ソ連が崩壊した1991年12月末から92年初頭にかけて、中国は中央アジア5カ国を一週間ほどで歴訪して国交を締結し、その流れでウクライナにも行き、国交を結びました。そして、旧ソ連の弾薬庫と化していたウクライナの軍事産業技術者がソ連崩壊により経費資源を失っていたところを大量に高給で雇用して中国に移住させました。以来、ウクライナと中国は蜜月関係となっていました。

さらに、ウクライナはヨーロッパへの一体一路の玄関口です。習近平の悲願の一つに中国とヨーロッパを結ぶ「中欧投資協定」があります。

署名寸前まで行きましたが、21年1月19日米トランプ政権時代のポンペオ国務長官が退任寸前にヨーロッパ諸国を歴訪し、ウイグル人権弾圧を「ジェノサイド」と位置づけて協定が成立しないよう働きかけました。それにより頓挫してしまいました。その協定を習近平氏としては元に戻したいのです。

その思いは、対露制裁とウクライナ支援で経済的に疲弊してしまった欧州側にもあります。ドイツのシュルツ首相22年11月4日、ドイツの主要企業12社を引き連れて訪中し、協定の批准手続き再開のシグナルを発信しました。続けて12月1日にもEUのミシェル大統領が訪中して習近平に会い、「ロシアの軍事侵攻を終わらせる役割」を習近平に求め、その見返りでもあるかのように、協定再開を示唆しています。

習近平氏としては一刻も早い停戦を望んではいると思われます。戦争が長引けばロシアの国力は削がれていきます。そうなれば、米国からのプレッシャーを一身に受けることになるからです。

4.停戦に向けての中国の役割はある?

米国やNATOは中国の和平提案を全く評価はしていません。ウクライナのゼレンスキー大統領も中身については受け入れていませんが、中国との会合については前向きと報じられています。

中国の停戦案に欧米は反発をするでしょう。しかし、中国としては、西側諸国以外の国々へのアピールもあります。ロシア側に一方的に傾いているとみられることは望ましくありません。

この和平提案には国際的な立場のバランスをとる意図が見えてきます。一方で、ロシアに対する武器供与の報道もあります。

欧米は中国主導の和平提案を受け入れることはないはずです。となると、中国が停戦に向けての動きをとるのは、国際社会へのアピール。理屈としても台湾との統一をするためには、領土を分割することはないという姿勢が必要です。

ロシアへ傾倒しているという国際社会の見方が強くなりすぎるのを避けたいのが中国の思惑ではないでしょうか。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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