【日経新聞をより深く】9月のドイツ消費者物価、10.9%上昇 物価高対策反動も~ドイツ経済の行方~
1.9月のドイツ消費者物価、10.9%上昇
ドイツのインフレが止まりません。エネルギーは前年対比43.9%増と、通常では考えられない上昇率となっています。
ドイツのシュルツ政権は高騰するガス価格の抑制策を導入すると発表しました。全体の対策規模は最大2000億ユーロ(約28兆円)に達する見込みです。経営不安が高まるエネルギー企業を救済するため利用者から徴収する「賦課税」の導入を取りやめます。企業や家計の負担を直接和らげるため、ガス料金に上限を設ける仕組みに方針転換しました。
西側陣営のロシアへの経済制裁は、ドイツには確実にブーメランとして返ってきています。ノルドストリームのガスは変わらず「停止」が続いています。
2.ドイツ経済のこれまでと今
ドイツ経済はユーロ圏で最も大きなGDPを誇っています。2021年のデータによると、ユーロ圏全体の約30%を占めます。
ドイツ経済がユーロ圏経済に与える影響は極めて大きなものです。そのドイツの深刻な景気後退はユーロ圏全体のGDPに大きな損失を与えます。
ドイツの産業構成比をみてみましょう。
比較として、米国と日本の産業構成比をみてみます。
米国とドイツを比較すると、米国は突出して情報通信、金融、不動産、その他サービスの割合が高いことが分かります。日本とドイツは似ていますが、ドイツは日本よりもさらに製造業比率が高く、ドイツは日本よりも製造業に頼る経済であることが分かります。
そのドイツでエネルギー価格の上昇は製造業を直撃し、生産能力を奪うことになります。結果、ドイツの輸出に多大な影響を与えるでしょう。
ドイツのGDP成長率を見ておきましょう。
コロナパンデミックによって、下がった成長率が一旦、回復したものの、下がり始めていることが分かります。
次にドイツのインフレ率の推移です。
PMI(購買担当者景気指数)を見てみましょう。PMIは製造業やサービス業の購買担当者を調査対象にした、企業の景況感を示す景気指標の一つです。購買担当者に、生産や新規受注、受注残、雇用、価格、購買数量などをアンケート調査し、結果に一定のウエートを掛けて指数化したものです。なかでも製造業の購買担当者は、製品の需要動向や取引先の動向などを見極めて仕入れを行うため、製造業PMIは今後の景気動向を占う「先行指標」とされています。
PMIは「50」を景況感の分岐点としています。これを下回れば景況感が悪く、これを上回れば景況感が良いとされています。製造業、サービス業ともに50を下回ってきており、ドイツの景況感は急速に悪化しています。
さらに、ドイツの民間調査機関であるGfkが毎月発表するGfk消費者信頼感指数をみてみましょう。
4か月連続で過去最低を記録しており、前月の-36.8からさらに悪化し、-42.5となっています。急速なインフレ率の上昇が消費者の購買力を奪っています。
このようにドイツ経済は急速に悪化しており、それはユーロ圏全体に占めるドイツ経済の影響力を考えると、今後、ドイツ、ユーロ圏の厳しい状況が浮き彫りになっています。
3.これからどうなる
ロシアがウクライナ4州を併合します。西側はますますロシアに対して厳しい対峙をしていくことでしょう。
しかし、それはドイツへの天然ガス供給を再開することはないということを意味し、ドイツ経済の苦境を意味します。
対ロシア制裁で、最も大きな打撃を受けているのはヨーロッパ、特にドイツです。ロシア制裁を継続する以上、ドイツ経済の厳しさが改善されることはないでしょう。
しかし、ドイツ国民はウクライナのために、自分たちの生活を犠牲にする状況に不満を高めていくはずです。現政権がこのまま、維持し続けられるかも疑問です。イタリアでは保守政権が誕生しました。EUが一枚岩でロシア制裁を継続するかどうか、わからなくなってきました。
ドイツも現在の政策のままであれば、厳しさはますます強くなります。しかし、このまま対ロシア制裁への姿勢が変わらず、エネルギー問題が解決しない状況を国民が受け入れ続けることができるかはわかりません。
ドイツは経済的に苦境が政治的な混乱を引き起こすかもしれません。しかし、当面、経済的苦境は続くでしょう。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】
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