【日経新聞をより深く】英トラス首相、法人減税を撤回 財務相を解任~英国の危機は終わらない~
1.英トラス首相、法人減税を撤回
英国のトラス首相は目玉政策を撤回するところに追い込まれ、財務相を解任しました。
財源の裏付けのない減税を打ち出したトラス政権の政策に端を発した英ポンドと英国債の暴落の幕引きを図った人事です。
ただ、今回の英国年金基金の損失は最大1500億ポンド(約25兆円)になったとみられることが明らかになっています。
2.英国の年金基金の損失
JPモルガンが今回の損失の損失をレポートしました。年金基金は損失に伴う支払のために、債券や海外資産を売却したようです。
英年金基金は低金利時代でも運用益を出すために、「ライアビリティー・ドリブン・インベストメント(LDI=債務主導投資)」という運用戦略をとっていました。
それは、①長短の金利スワップと、②銀行間のレポ金融の借入(短期金利)で、国債を何倍も買うレバレッジ運用です。
レバレッジを2~4倍かけていたことが大きな危機となりました。
英国年金基金は、①国債を、相手銀行に担保として差し出し(レポ金融では、買い戻し条件付きの国債の売り)、②オーバーナイト金利がほぼゼロの短期マネー(期限はおよそ2週間)を借りて、金利1~2%の国債を買う運用をしていました。
レポ金融の金利と、国債との金利差の1%から2%が年金基金の利益です。この英国年金基金のように、レポ金融に短期借り入れで買う国債を、何重にも積み上げると、国債の1%の利益は、何倍にも大きくなります。何重にも積み上げるとは、負債で買った国債をまた担保に入れて借り、新たな国債を買うことを繰り返すことです。つまり、レバレッジを大きくすることです。
しかし、この運用では一方で、レポ金融で借りる短期金利上昇のリスクが拡大します。おそらく英国年金基金のファンドマネージャーは金利の上昇を予想していなかったのでしょう。
既発国債の固定金利は低いままであり、利上げがあると、価格(市場の時価)が急落します。そして、中央銀行がインフレを認識した時、上げるのは短期金利です。
今回、きっかけは英政府の大規模減税の報道でした。これは財源の裏付けがなく、この減税策の発表で懸念されたのは英政府の財政でした。そのため、英国債が売られました。
長期債は1%の金利上昇につき、7%から8%も価格が下がります。2%の金利上昇なら14%から16%下がり、金融危機になっていきます。銀行は国債を最も大きな資産にしているからです。
英国債が売られたため、金利が上昇しました。国債金利が上昇すれば、国債価格が下落します。22年8月の金融が正常な時の長期金利は2.0%でした。それが今、4.5%まで上昇しています。約20%も時価が下がったのです。
国債が売られ金利が上昇すれば、英年金基金は担保不足に陥って、マージンコールを求められました。それに応えるために保有国債を売却します。そのため、ますます国債は下落し、金利は上昇するという悪循環に陥り、たまらずイングランド銀行が介入して国債を買い上げたのです。
ただ、この英年金基金のポジションはすべて解消されたわけではありません。さらに金利が上昇すると、破綻の危機は再燃します。さらに、これ以上国債が売られると、政府の財政危機にもなっていきます。
3.英国は政治も混乱していく
今回の騒動の責任を取る形で、クワーテング財務相は解任となりました。そして、トラス首相もこの難局を乗り切れないという観測も出ています。
クワーテング財務相を解任し、政策転換を発表しましたが、金利は下がりません。
ポンドも低いままです。
つまり、この危機は収まっておらず、依然として英政府の動きを市場は見ています。
そして、トラス首相の求心力の低下も報じられています。
英国政府、そして英国年金基金、イングランド銀行はこの難局を乗り越えることはできるでしょうか。
対ロシア強硬派の英国は、戦争激化によりエネルギー価格が上がることを避けられません。これから、財政危機を迎えようとも、スタグフレーション(不景気の中の物価高)がやってこようとも、計画停電になっても、エネルギー価格を抑えることはできません。
英国の財政破綻というシナリオは可能性ゼロではありません。
未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】