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研究者がもっと輝く社会を創りたい。僕がいまnoteを始める理由
Beyond Next Venturesを創業してから10年が経った。
ディープテック特化のベンチャーキャピタルとして、総額約480億円規模のファンド資金を運用し、これまで数多くの大学発スタートアップを支援してきた。
スタートアップとして始まった僕たちは、今でこそディープテックVCの中では国内トップクラスの一角を担っているという自負がある。しかし一方で、大学発ベンチャーへの投資を通じてアカデミアを良くしてゆきたいという設立当初の狙いとは裏腹に、日本のアカデミア全体を取り巻く状況は依然として厳しいままだ。いや、むしろ10年前よりも悪化している、とすら感じてしまう。
日本のアカデミアが持つ可能性は、とても大きい。その潜在的な力を奮い立たせることで、日本は再び国力を高められるはず。僕はそう信じている。
その一方で、アカデミアを取り巻く環境はとても厳しく、解決すべき多くの課題に直面している。せっかくの日本の宝(研究者によって生み出された素晴らしい技術の種)が埋もれたままで陽の目を浴びない現状は、あまりにもったいなく、とても悔しい。
博士人材、スター研究者を増やしたい
課題の詳細は追って述べていくが、いずれにせよ、なんとかして現状を打破したい。そこで、変革のための第一歩をまずはnoteから踏み出そうと考えた。
難題を解くカギは、仲間の存在だ。「日本のアカデミアの衰退に対する危機感」を共有、認識し、改善に向けて一緒に動いてくれる仲間が増えていけば、この現状はきっと変わっていくはず。
このnoteは、これから修士課程や博士課程に進む方や、博士号を取得したあとのキャリア形成に悩んでいる方々に向けても書いている。
ときにはネガティブな側面を伝えることがあるかもしれない。しかし根底にあるのは、希望に満ちた未来を一緒に創っていきたい、という想いだ。現状を変えて、日本に博士人材やスター研究者をどんどん増やしていきたい。すべてはその想いを起点に、僕の考えを共有していきたい。
また、この想いは、2024年8月に迎えたBeyond Next Ventures創業10周年の節目に作成した社歌「次の向こうへ」にも込めている。研究者や起業家と共に描く未来や日本への想いを、ぜひ聴いてもらえたら嬉しい。ちなみに、
作曲作詞は僕が自ら手掛け、曲・ボーカル・映像すべてAI技術を駆使して作った作品だ。
※こちらの日経新聞の社歌コンテストにエントリー中ですので、是非こちらのYoutube動画のショートバージョンにいいねをお願いします!
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Beyond Next Ventures創業の原点
僕は、東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻を修了後、2003年4月に新卒で株式会社ジャフコ(現・ジャフコ グループ株式会社)へ入社し、ベンチャーキャピタリストとしてのキャリアをスタートさせた。
2008年に転機が訪れる。人事異動で、大学発ベンチャー投資を担当することになった。そこで見たものは、日本の多くの研究者の方々の、素晴らしい技術や研究成果、そして事業化への想い。
にも関わらず、社会に活かされないまま埋もれてしまっている、という現実だ。そんな現実に、当時の僕は強い危機感を抱いていた。
特に、アカデミア発の技術を社会実装するための環境や仕組みが整っていない。そう感じていた。まだまだ発展途上にあったのだ。この課題意識との出会いが、のちに僕の人生を大きく動かしていくきっかけとなった。
「この素晴らしい研究成果を社会に還元できる仕組みを創りたい」。
ジャフコに入社して11年目。投資先企業がマザーズ上場を果たし、大きな区切りを迎えた。これを機に退職を決意し、2014年8月にBeyond Next Venturesを創業した。
「人々の想像を超える未来を実現するスタートアップを生み出す」という指針のもと、「日本の大学発ベンチャーへの投資を通じた、アカデミアへの資金循環の実現」をミッションに掲げた。
大学発ベンチャー(今では「ディープテックスタートアップ」と呼ばれている)の事業化を支える。そうして生み出された資金を、社会とアカデミアに再循環させ、日本のアカデミアの発展に貢献する。この想いが、現在に至るまでの僕の行動を突き動かしている。
研究者にとって望ましい環境づくり
Beyond Next Venturesの目指す未来は明白だ。
日本の研究者たちが、充実した研究環境の中で自由に研究活動へ没頭し、そこで得られた研究成果は社会に実装され、さまざまな製品やサービスとして結実し、社会課題を解決し、社会に貢献する。そんな未来だ。
また、実用化のフェーズのみならず、基礎研究の段階から支える仕組みを作り、研究者にとって望ましい研究環境を整備する。日本の若者が科学者や研究者に憧れる社会をめざす。これらの実現が、当社の使命であると僕は考えている。
次回以降のnoteでは、日本のアカデミアを取り巻く課題を具体的に取り上げ、その解決策を提示していきたい。
また、国内外の研究者や、大学・企業との対話を通じて得た知見を共有したり、当社が支援してきた起業家たちの事例を交えたりしつつ、「理想的な研究環境とは何か?」という問いについても深堀りしていく予定だ。
ともに未来を創る仲間を求む
2003年からの日本の博士課程進学率は、主要先進国の中で唯一横ばいだ。つまり逆に言うと、他の国では増え続けている。
また、あるアンケート結果によると「博士になりたい」と考えている日本の高校生の割合は、わずか2%しかいないのが現状だ。ちなみに同調査ではアメリカ15%、中国19%、韓国6%と、大きな「希望格差」が存在する。
例えば、高校生の職業意識の特徴は「安定志向、生活重視」であり、教育進路についても「大学院博士まで」を望む生徒は2%にとどまる。米国の15%、中国の19%、韓国の6%に大きく後れをとる。
さらに、日本の研究者の地位や研究環境、収入条件などは世界と比較しても劣悪なままだ。
こうした現状を打開するには、単にアカデミアに対する資金提供だけでは不十分で、社会全体のアカデミアに対する意識を変えていく必要があると僕は思っている。
アカデミアの課題は、一部の研究者や業界だけに閉じた話ではなく、未来の日本社会全体に関わる課題だ。
しかしその一方で、課題に共感し、ともに行動してくれる人々が増えていくことで、未来は確実に変えられる。
もしこのnoteがきっかけで日本のアカデミアの現状を知り、課題を理解し、可能性の大きさに気づいて、僕と一緒に行動を起こす方が一人でも増えたら、とても嬉しい。
日本のアカデミアの復興には、多くの人々の力が必要だ。研究者だけでなく、企業人や学生も含めて、すべての人々が未来の当事者として、日本のアカデミアのこの課題に取り組むべきだと感じている。
もし何か心に響くものがあったなら、ぜひ日本の明るいアカデミアの未来に向けて、それを共に創る仲間として活動に加わってほしいと思う。また、ぜひこのnoteや僕のX(@miraibouken)もフォローしてもらえたらうれしい。
次回は、僕がアカデミアへの強い想いを抱くきっかけとなった、ジャフコ時代での原体験について詳しく述べたいと思う。
追記:
早速こちらのnoteにフィードバックいただけました。嬉しいです。ありがとうございます!
ASAGI Labsはagingを一つの切り口としつつ、長期的に様々な研究に関わる人材を支援できる仕組みを民間から作っていきたいと思っているし、伊藤さんの記事に共感します。
— Motoshi Hayano (@HayanoMotoshi) December 4, 2024
研究者一人一人も、受け身ではなく能動的に様々な発信や活動をしながら、研究を支援したい!と思ってもらえる努力が必要 https://t.co/2piIopXI0Y
https://x.com/mtmrtksh/status/1864140112898216056
研究者の中にはもしかしたらまだ、VCや起業家みたいな存在を「金儲けしか考えていない人たち」と思っている人がいるかもしれない。
— 三ツ村崇志/Takashi Mitsumura🌏 (@mtmrtksh) December 4, 2024
こういう人もいるということをぜひ知って欲しい。
研究者がもっと輝く社会を創りたい。僕がいまnoteを始める理由|伊藤 毅 @miraibouken https://t.co/j0Us8SKqSS
https://x.com/yama_jtc/status/1864188000596578571
私も大学に入るまでは博士過程に進む気満々でした。でも
— やま🌋 (@yama_jtc) December 4, 2024
・博士に進むとキャリアが狭まる
・アカデミアは環境が辛い
そんな話ばかりで修士でドロップしました。
熱量が無かったと言われればそうかも知れませんが、リスクに見合ったリターンが見えてないと踏み出せない人が多いのも事実。応援してます。 https://t.co/jNwT75ju5z
https://x.com/CoffeeKumazaki/status/1864183121345958178
素晴らしい取り組み!
— Kohei Kumazaki (@CoffeeKumazaki) December 4, 2024
博士人材の強みや魅力、活躍イメージがあまり周知されず、キャリアに対する不安が博士課程を目指す大きなハードル担っていると感じます
VCさんのような、社会に風を吹かせる領域の方がそこに本気で切り込んでくれるのはありがたすぎる https://t.co/Cg5zYPRBDh
https://x.com/ryuhi_sato/status/1864656255308165284
>企業人や学生も含めて、すべての人々が未来の当事者として、日本のアカデミアのこの課題に取り組むべき
— 佐藤龍飛 Ryuhi Sato (@ryuhi_sato) December 5, 2024
こちら非常に共感できます。
自分も学生という立場から当事者意識を持ち、アカデミアの課題解決に貢献したいと再認識しました。 https://t.co/mtbs6Z0b3M
https://x.com/RyoMurakami_WPI/status/1864364776836747560
“また、あるアンケート結果によると「博士になりたい」と考えている日本の高校生の割合は、わずか2%しかいないのが現状だ。”
— 村上 遼 𝕏 Ryo Murakami (@RyoMurakami_WPI) December 4, 2024
研究者がもっと輝く社会を創りたい。僕がいまnoteを始める理由|伊藤 毅 @miraibouken #note #自己紹介 https://t.co/ge6b9fYVQo