考える力(クリティカル・シンキング)
■クリティカル・シンキングの大切さ
今はインターネットよって、無数の情報が溢れています。つまり、知識の量による差というのは、無くりつつあると言ってもいいのかもしれません。知識の量に差が無いのだとすると、大切なことは「考える力」ということになります。
「考える力」の中でも大切なことが、クリティカル・シンキングです。クリティカル・シンキングとは日本語に訳すと批判的思考となります。与えられた情報や教えを無批判に受け入れるのではなく、自分の頭で考えて取捨選択し、判断するということです。情報が氾濫している状況において最も大切な「考える力」だと言えるのではないでしょうか?
■クリティカル・シンキングとロジカル・シンキング
クリティカル・シンキングに似た考え方にロジカル・シンキングがあります。ロジカル・シンキングは、前提に基づいて推論を積み重ねて結論に達することが目的です。他方、クリティカル・シンキングは前提自体が正しいかを考察・判断することが目的です。ビジネスにおいて成果を上げるためにはどちらも欠かすことができない思考法です。しかし、クリティカル・シンキングの方がより上位のレベルで俯瞰して物事を見ていると言えます。
ある企業における、「Aという製品の製造プロセスの改善を行うために何をすべきか?」という課題には、ロジカル・シンキングが必要です。改善のために必要な要素を漏れなくダブりなく洗い出していくという過程がロジカル・シンキングにあたるからです。しかし、「Aという製品の製造プロセスを改善すべき」という前提は本当に正しいのでしょか?この前提自体を疑うことがクリティカル・シンキングです。そもそもAという製品はプロダクトライフサイクルの衰退期に入っており、その製造プロセスを改善することに意味が無くなっている状況かもしれません。
このように、クリティカル・シンキングは、ロジカル・シンキングよりも俯瞰して物事を観察しつつ、前提自体を考察していきます。
■クリティカル・シンキングの3つのポイント
クリティカル・シンキングを深めるために参考文献で紹介されている3つのポイントについて、考えてみたいと思います。
①「きっと~にちがいない」と決めつけない
私たちは、情報に触れると調べもせずに、正しいと鵜呑みにしてしまいがちです。特に著名人や立派な肩書きの人の発言は深く調べもせずに、正しいと判断してしまいます。また、経験や思いこみから「きっと~にちがいない」と決めつけてしまうことがあります。このように、情報を鵜呑みにしないようにすることや、物事を決めつけてしまわないことが、クリティカル・シンキングを身につけるためには重要です。
②擬似相関を見抜く
疑似相関とは、複数の物事が実際には相関(関連)していないにもかかわらず、相関(関連)しているように見えることです。擬似相関の例として、ウィキペディアで示されている、「ある街におけるアイスクリームの売り上げ」についてご紹介します。アイスクリームの売り上げが最も高い時期には、プールでの溺死事故が最も多いというデータがあったとします。このとき、「アイスクリームの売り上げ増」が「プールにおける溺死増の原因(あるいは結果)である」との主張が擬似相関に基づいた考え方です。クリティカル・シンキングとは、この主張は誤りであると見抜くことです。
③相関関係と因果関係を混同しない
②のアイスクリームの売上の例の場合、実際には、猛暑が両方の原因となっていると思われます。擬似相関からアイスクリームの売り上げ増が溺死増の原因と決めつけてしまうことが、相関関係と因果関係を混同していることなのです。クリティカル・シンキングでは、相関関係と因果関係を混同せず、猛暑という真因を突き止める注意深い思考が求めれます。
以上のように、情報が溢れている今の時代は、「考える力」が重要です。「考える力」の中でもクリティカル・シンキングは、情報の取捨選択や物事を俯瞰して観察し判断するために役に立ちます。クリティカル・シンキングを身につけるためには、「きっと~にちがいない」と決めつけない姿勢が大切です。また、疑似相関に騙されないように、何が真因なのかを見極める注意深い思考が求められます。
<参考文献>
林創,山田剛史. (2012). リサーチリテラシーの育成による批判的思考態度の向上 : 「書く力」と「データ分析力」を中心. 京都大学高等教育研究.
(2022). 擬似相関. ウェキペディア. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%93%AC%E4%BC%BC%E7%9B%B8%E9%96%A2
(第74回 2022/8/20)