宝塚のお茶会あるあるの風景
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お茶会が始まった。
いよいよ椿の入場だ。
広い会場は扉で閉ざされた空間になっている。
そこへおおげさな音楽が鳴り響くと同時に、後ろの中央扉が開いた。
そこにはスラっと長身に小顔の椿がいた。
私の席からはとっても遠かった。
後ろとはいえ中央と端ではかなりの距離がある。
(やっぱりね)
と少しがっかりしていると、なんと椿がこちらのブロックに向かって歩いてくる。
どうも入場と退場時に遠回りをして歩くのが決まりのようだ。後方の人たちにも顔見せしてくれると気づくと途端に元気が出た。
とはいえ椿の歩幅が大きいだけに歩く速度も速かった。
あっという間に目の前からいなくなる。
まあそれはしかたない。
とにかくお茶会を楽しもう。
さっき澪と璃子から「終わったらお茶でもしようね」と誘われている。
見逃したところや見えなかったところは後から聞けばいい。
そう思うと途端に気持ちが楽になった。
◆
お茶会は椿への質問、クイズなどで盛り上がっていた。
椿自身も意外にサービス精神旺盛だ。クイズにのって答えている。
やはりファンしかいない会場では安心するのだろう。結構内輪話もしてくれる。
公演中のハプニングやこんな風に思いながら演じていた、などを話すと会場中が物音ひとつさせず集中して聞いている。こんなときのファンの集中力はすごい。カサっと音をたてようものならものすごい目立つから要注意だ。
椿は笑いながら苦労したことを話しているが、サラっとやっているようなことでも実際は大変なことを乗り越えているんだろうな。
私はそんなことを思いながら聞いていた。
中盤になると集合写真を撮影するという。
これは確か前の贔屓のときにもやった。グループごとに贔屓の周りに立って写真を撮る。
私はあの集合写真がとっても苦手。舞台上で遠く離れているからなんとか直視しているものの、実際に目の前に椿が現れるとなると冷や汗が出る。
なによりイヤなのが、出来上がりの写真を見た時だ。写真は後日送られてくるのだが、ジェンヌさんのスラっとした八頭身&小顔の横にちんちくりんの私が並んでいて、横並びなのに悲しき遠近法。これがなかなかキツい。顔のサイズが全く違って、ジェンヌさんってほんと異次元なんだなって実感するのだ。
ちなみに集合写真とは。
壇上にグループごとに呼ばれ次々上がり、椿を囲み写真を撮る。そしてまた次のグループが上がる。それを1000人以上いるすべての人が終わるまで繰り返されるのだ。
撮影場所の中央にじっと座って写真が撮り終わるのをひたすら待つ椿。その姿を見ていると、椿がだんだん置物に見えてくる。
微動だにせずずっとあの姿勢で座っているのはさぞかし大変だろう。
しかも写真を撮る時にはニッコリ笑顔を作るのだ。
私たちのグループが写真撮影する頃には、椿の表情にも疲れが見え始めていた。それはそうだろう。撮影しはじめてかれこれ一時間以上経っている。あんなの誰だって疲れるに決まってる。
「私の写真撮影、いいですから。早く終わらせてあげてください」と言いたいくらいだ。
あの魂が抜けきったような椿の横で写真撮影をするなんて、私には不安でしかない。
そしてその不安は的中する。
私たちのグループが壇上に上がり撮影するその一瞬の隙に、グループの誰かが椿をのぞきこむように微笑みかけた。
椿はもう疲れ果てているのだろう。その人を一切見ることなく前を向き続けている。チラッとも見ない。
微笑みかけた人は何事もなかったかのようにそのまま写真撮影に臨み、終わると壇上から去っていった。
ひえー、もしあれが私だったら、メンタル崩壊していただろう。
期待して笑いかけたのに無視されるのだから。さすがに無視はつらい。
でも疲れ切っているであろう椿に、あのタイミングで覗き込みながら微笑みかけるのもどうかとも思う。
私はぜったいやらない、とにかく1分1秒でも早くあの場から解放してあげたい。
そんなことを思いながらそそくさと自分の席に戻っていった。
◆
椿の退場の時間になった。
帰り道は来た道と違うルートで帰るらしい。
こちら側には来ず、反対側の通路を通って扉に向かう。
あんなに激しい舞台を終えて、こんなにお茶会でサービスしてくれて。
そして明日も2回公演がある。
ジェンヌさんって本当に大変な職業だなぁとつくづく思うのだった。
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