シェパードムーン
「羊飼いの月」というロマンティックなタイトルの、エンヤのアルバムがとても好きだった。聴くのはいつも偏頭痛が起きて体調がすこぶる悪い時だった。このアルバムの曲をそんなに大きくない音量で流しておくと、いつの間にか症状が和らいでいるということが幾度となくあった。
なんでもない時に聴くと、少々物足りない感じがしないでもないので、わたしにとっては長いことこれは体調悪い時のための音楽であった。
羊飼いの月の意味を知ったのは最近のことだ。それまではケルトではそういう月があるのかな?(例えば4月の満月をそう呼ぶとか)などと思っていた。
羊飼いの月とは、月の重力作用により惑星の環に影響を与え、その崩壊を防いでいる月のことらしい。環の外縁や隙間に位置する小さな月。
惑星の環というと土星が有名だが、調べてみると天王星や海王星にも存在しているらしく、ちょっとびっくりした。
地球にも環があればいいのになぁと、幼い頃子供心に思っていた。羊飼い衛星のことを知っていたら、その小さな月を熱望したに違いない。
地球の月は唯一で重すぎる。なんか、関係が濃くてウェットすぎる気がする。
しかし考えてみると、月がさらに超重くて、しかも地球に近かったら、地球の重力で壊れていたかもしれない。だからこれでも適度な重さで距離を保っているとは言えるのだろう。
月が地球にもっと影響を与えようと地球と近づいてきて、近づきすぎて崩壊したら、バラバラになった月の大部分は地球に落ちていく。しかし落ち切らなかった欠片は地球を周回し始める。周回する欠片はやがて環をつくり、その中の幾つかの欠片は環を保つ羊飼いになる。
わたしはその羊飼いの月に腰かけて、地球を周回しながら宇宙を眺めている。
偏頭痛でなくても、これからはこのアルバムを聴くたびにそんなことを思うかもしれない。