それって、男女の友情? 色恋? 敬愛? -第5幕-
「自分の喜びを上乗せする」という、したたかさ ~誕生日プレゼントに悩まない方法~
◆3回目のディナー翌日 → 初めての昼ショッピング
3回目のディナー翌日、僕は彼女へメッセージを送った。
「サキさん、おはよう。
僕はすぐに眠れるって言ったけど、昨日はなかなか寝れなかった。
サキさんと腕組んで、興奮したかなぁ?
今度のサキさんの誕生日祝いは、何を食べたい?
それとも、お茶して、ショッピングでもする?
何か、プレゼントするよ😊 」
前回のディナーで、僕はさりげなく彼女の誕生日を聞いておいた。そもそも、自分にとって大切な日を相手が知ってくれているのは、誰でも嬉しいはずだから、僕はちょっとでも打ち解けてきたら誕生日を尋ねることにしている。これは良い人間関係を作る基本の一つだと思っている。
そして、多くの人は好意を持っている相手の誕生日に合わせて、何かプレゼントをするだろう。そのときに必ず頭を悩ませるのが「何をプレゼントしたらいいのか?」だと思う。もちろん、相手が喜ぶ最高のものをプレゼントしたいと思うからこそ悩むのだが、僕はあまり悩まない。なぜなら、プレゼントをするときに「自分の喜びを上乗せ」しているからだ。
いま、あなたは「自分の喜びを上乗せ?」と思ったでしょう。
その答えは、後ほど...
さて、僕と彼女の話に戻ろう。
その日の夕方、彼女から返事が届いていた。
「お疲れさまです!
昨日は楽しかったですね🎶
本当ですか?
うれしい〜😊✨
タクヤさんとショッピングしたいなー🎶」
僕は帰りの電車の中で、こう返信した。
「サキさん、こんばんは。
サキさんのレスで顔が自然にニヤけるから、マスクなしで電車に乗れな〜い😅
会うのは夜だよね?
そうなら、例の商店街はどう?
食べ歩きしながら、お店を見て回る。
すっごく、楽しいと思うよ🥳」
翌日の朝、彼女からメッセージが届いていた。
「おはようございます😊
商店街は楽しいですよねー✨
でも実は学生時代の友達で働いている子が何人かいて、行くとよく会うんですよ💦
ぶらぶらできる感じだと、百貨店とかどうですか?😊
たまに1人で行きますが、タクヤさんと回ってみたいな🎶 」
昼の休憩時間に、僕は返事を送った。
「サキさん、こんにちは。
やっぱり、知ってる人に会うのが心配だよね。
本当は、いろいろな場所を考えていたから、サキさんに選んでもらえば良かったね。
ゴメン🙏
もちろん、百貨店はイイと思うよ😊
いつにする?
サキさんの貴重な20代のうちに会いたい気もするし、一歩大人の30代になったすぐがイイかも...🤔
いや、とにかく一日でも早く会いたい〜😄」
その日の帰り、ホームで電車を待っている間に、僕は彼女へメッセージを送ってしまった。
「サキさんの返事を待たずにメッセージを送ってゴメン。
もう今の会社ではやっていけないくらいの気持ちになっていて、サキさんと直ぐにでも会いたくてしょうがないんだ。
お願い🙏
頼れるのは、サキさんだけです」
翌朝、電車の中で彼女からのメッセージを読んた。
「おはようございます😊
大丈夫ですか?
何かありました?😣
20日か、18日の仕事終わり空いていますがいかがですか?
それか早い日だと13日の15時半頃から夜まででしたらお会いできます! 」
僕は電車の中でこぶしを握ったあと、すぐに返事を送った。
「サキさん、ありがとう😭
13日に会いたい! 」
◆初めての昼ショッピング
2023年8月13日(日)
お盆休みの街は、すごい人。人。人。
いつもは仕事帰りのわりと早い時間に待ち合わせをしていたから気づかなかったが、こんなに人出があるなんて...
と、思いながら彼女との待ち合わせ場所で待っていると、彼女からメッセージが届いた。
「タクヤさんごめんなさい!
15分くらい遅れます😢😢」
相変わらず、時間通りに来ない人だなぁと思いながら「大丈夫だよ」と返事を送った。待ち合わせ時間を15分くらい過ぎたころ、彼女が姿をあらわした。平日とは違う、ちょっと着飾った彼女の姿を見て、僕は「今日は、より一段とカワイイね」と彼女の耳元でつぶやいた。ちょっと照れながら、彼女は「ありがとうございます」と言い、軽く頭を下げた。
今日は彼女の誕生日をお祝いするためのショッピング。百貨店のエスカレーターをふたりで並んで上がりながら、彼女にこう訊いた。
「サキさんは、何をプレゼントしてほしい?」
彼女は迷うことなく「前にお話しした、チークがほしいです」と言った。
僕は彼女の頬のあたりを見て「いま塗っているのと同じものがほしいの?」と訊いた。
彼女は「そうですね。でも、ほかのも試したいから」と言いながら、コスメフロアでエスカレーターを降りた。
男性がめったに立ち寄ることのないフロア。化粧品の匂いがプンプン漂っている通路を彼女と一緒に歩きながら、僕は「いつも、どこのブランドのを使っているの?」と訊いた。
彼女は「ディオールを使ってます」と言いながら、そのショップへ向かってまっしぐらに歩いていった。ちなみに、百貨店でのコスメフロアは「お試し」ができるというを僕は知っていたけれど、まさにそのとおりのことを彼女はするつもりだったらしい。なので、ディオールのショップへ着くなり、ビューティーアドバイザーとの相談をするための予約を取り始めた。
正直、僕はちょっと“ポカン”としていた。なぜなら、女の人はふつう、そういった手続き的なものが苦手で、一緒にいる人にお願いすることが多いと思っていたからだ。なので、ひとりで“さっさ”と予約を取りに行った彼女の後ろ姿を“この行動力が彼女の魅力なんだよなぁ”と思いながら眺めていた。
予約を取って戻ってきた彼女が「順番は、1時間後くらいになるみたいです」と言ったので、僕は「じゃあ、それまでの間、いろいろ見て回ろうか?」と応え、僕たちはエスカレーターへ向かった。
僕は「百貨店でウィンドウショッピングをしたのは何年までだろう?」と考えながら、ショップへ入っていく彼女についていった。すると、洋服屋さんで彼女は僕にこう訊いた。
「タクヤさんは、私にどんな服を着てほしいですか?」と。
彼女と会うのが仕事帰りということあって、彼女はいつもパンツを履いていたから、僕は「ロングスカートを履いているサキさんを見てみたいなぁ」と言ってみた。
彼女は「えっ、そうなんですか?」と、少し驚きながら僕の顔を見た。もちろん、そう言った僕でさえロングスカートを履いた女性を見ることはほとんどないので、彼女の驚きはふつうなのかもしれないと思った。でも、普段はしないような格好、人には見せないような格好を“僕にだけは見せてほしい”という願望もあって、思わず言ってしまった。
そのあとも、アクセサリーショップ、雑貨のショップなどをひと通り見終わったときには、コスメの予約時間が来ていた。予約時間を過ぎていたが、コスメショップの入り口で案内している女性に彼女が声を掛けると、すぐにショップの奥へ連れて行ってもらえた。そして、僕はビューティーアドバイザーからある言葉を掛けられて、一瞬ドキッとしてしまった。
「タッチアップに、ご一緒されますか?」と言われたからだ。
分かっていたが、そもそもコスメフロアに50歳後半にもなったオジさんが居ることに引け目を感じていたし、女性のお化粧の相談にまで立ち会っていいのか?と、思ってしまったからだ。
彼女の方をチラッと見ると“なに?”みたいな顔をしていたので、“べつに気にしないんだ”と拍子抜けした気分だった。ただ、彼女と並んで座った僕はまだ落ち着きを取り戻せず、思わず周り見渡してしまった。
ビューティーアドバイザーが彼女に「何をお探しですか?」と尋ねたので、彼女は「チークがほしいです」と答えた。そして彼女はスマホをカバンから取り出して、自分が使っているチークの型番を伝えていた。ビューティーアドバイザーは棚から同じ型番のチークと一緒に、同系の商品をテーブルに並べた。
まず最初に、彼女が伝えた型番のチークをブラシを使って彼女の手の甲へ塗った。そして反対の手に、同系のチークを塗っていった。そのときに使っていたチークブラシを彼女が気になったらしく、ビューティーアドバイザーに「そのブラシは購入できますか?」と訊いた。
ビューティーアドバイザーが「在庫を調べますね」と言って席を立っている間に、彼女は僕に「どっちが良いですか?」と尋ねてきた。後で塗った同系のチークは少し赤みが強かったので、僕は彼女の手を取りながら「こっちはちょっと、ほてって見えるよね」と言った。
そんな会話をしているとビューティーアドバイザーが戻ってきて、ブラシは在庫がなかったことを伝えてきた。それを聞いた彼女が「どちらのチークが良いですかね?」と尋ねると、その女性は「こちらのチークは少しほてって見えるので、最初の方がお似合いかもしれませんね」と言った。
それを聞いた彼女は僕の方をパッと見て「タクヤさんと同じことを言ってる。スゴイ!」と言った。僕は彼女に格好いいところを見せることができて、とても嬉しい気持ちになっていた。
そして、お会計になりチークのお代は7,500円。“まぁ、こんなもんか”と思っていると、ビューティーアドバイザーが彼女に顧客データの登録をお願いしていた。そして、タブレットを渡された彼女が名前などを書き込んでいるのを僕はチラ見していた。というのも、僕は彼女の苗字を知らなかったからだ。彼女と出会って5回目で、ようやく彼女のフルネームを知り、僕は彼女にもう1歩近づけた気がした。
コスメフロアを後にした僕たちは、お茶でも飲みながら残りの時間を過ごすことにした。オープンカフェのようなお店で二人掛けのテーブルをはさんで座ると、彼女がこう切り出した。
「会社で何があったのですか?」と。
僕はそのことをすっかり忘れていたが、彼女に促されたことで、ながながと話し始めたのだった。
いつものように、彼女は僕の話しをちゃんと聞いて、すべてを受け止めてくれた。これが彼女を人として尊敬でき、信頼できると思える理由なのだ。
彼女との幸せな2時間が終わり、お手当てとして1万円を渡して、僕たちは家路についた。
駅のホームで電車を待っていると、彼女からメッセージが届いた。
「今日はありがとうございました✨
タクヤさんとお買い物デートできて楽しかったです😊✨
プレゼントもありがとうございました🎶
大事に使いますね💖」
僕はすぐに返事を返した。
「僕の方こそ、ありがとう。
サキさんには、いつも元気を貰えるから😊
つぎは、30歳のサキさんだね。楽しみだなぁ〜😉」
こうして僕たち初めての昼ショッピングの幕が閉じた。
◆答え合わせ
さて、冒頭で話しをした「自分の喜びを上乗せする」とは、どういうことか?の答えです。
まず、コスメショップで彼女がビューティーアドバイザーからチークを手に塗ってもらったシーンを思い出してください。塗ってもらったあと、彼女が僕へ意見を求めましたね。それに答えるために僕は“彼女の手を取って”と言いました。これが今回、僕にとっての「自分の喜びを上乗せする」だったのです。
コスメショップでのお試しがどのようにされるのかを、僕はもちろん知っていました。つまり、手の甲に塗ることを分かっていて、それを彼女が見せながら僕に意見を求めてくることも。とするなら、自然に、堂々と彼女に触れることができるはず。
誰もが、誕生日プレゼントは相手が喜ぶものを贈りたい。でも、贈ったプレゼントで本当に相手が喜ぶかどうか分からない。
(あらかじめ、欲しいものを訊いておいても、この不安は消えない)
だから、何を贈ったらイイのか悩んでしまう。
だったら、プレゼントするものは「贈るときに」相手に選んでもらえば良いと思う。ただ、そうすると予算をオーバーしたり、場違いな場面で気まずいことになるかもしれない。つまり、余計な気を使ったりするわけだ。
それを帳消しにできるのが「自分の喜びを上乗せする」という、したたかさなのだと僕は考えています。
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