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バスケ部になりたい
生まれ変わったら、バスケ部になりたい。坊主頭のバスケ部。身長166cm。類まれなるスピードとパスセンス。可愛らしい笑顔。誰も傷つけない言動。華奢のようでしっかりしている身体。同じクラスの彼女。黒髪セミロングの彼女。身長167cm。身長をイジってくる彼女。1センチだけだろ!って言うバスケ部。頭ポンポンされるバスケ部。それ俺がやるやつ!って言うバスケ部。お返しにって優しく彼女をポンポンするバスケ部。手のひらで顔を隠す彼女。なんだよー!って照れるバスケ部。睨む帰宅部。おーはよーう!って入ってくる先生。お前らイチャイチャすんなー!って言う先生。してないです!ってハモるバスケ部と彼女。ひゅーひゅーって教室。突っ伏す帰宅部。席戻れーって先生。点呼取る先生。点呼取りながら、辞めようか考えてる先生。そろそろ潮時か先生。夢があった先生。先生にも夢があってなと語りだす先生。クラスのジャイアンに頭を撫でられるバスケ部。やめろよっ!て囁くバスケ部。泣き出す先生。ごめんなぁ、ごめんなぁ、先生。俺、やっぱなぁ、やっぱ、俺、、、先生!と叫ぶバスケ部。先生!辞めないでよ!とバスケ部。先生の事皆大好きなんです!と彼女。ちょっと嫉妬するバスケ部。朝八時四十五分に教卓にもたれ掛かって号泣する先生。突っ伏す帰宅部。早弁するジャイアン。先生!先生!と教室。
ガラララッと椅子をひいて、立ち上がる帰宅部。集まる視線にじわっと汗をかく帰宅部。先生、の、夢は、、なんですか?と帰宅部。帰宅部のほうを見て、泣く先生。秋山ぁ、お前は優しいなぁと泣きながら先生。秋山ぁ、俺なぁ、お前に親近感湧いてんだ。俺もなぁ、高校の時、しんどくてよ。楽しそうにしてる奴ら全員死んでしまえって思っててよ。楽しくないのは自分だけで、自分だけがさぁ、ずっと彷徨ってるみたいでさぁ。皆それぞれ、強い意志があるようでさ。俺には何にもなくて。だから現実は見たくもないし、見れなくて。ずっと机に突っ伏して、学校が終わるのを待ってた。周りの視線はすっげぇ気になるから、親にも何も言われないように頑張って突っ伏してた。しんどかったなぁ。楽しくなかった。ずーっと一人。文化祭も体育祭も。毎日毎日。一人。席についても、席を立っても、一人。放課後も一人。帰路も一人。秋山と一緒で帰宅部だったからなぁっと少し微笑む先生。家でさ、朝起きて、帰りたいなぁってまず最初に思うんだよ。おかしいだろ?家なんだよ?それくらい行きたくなかったなぁ。秋山もそうか?と聞く先生。涙ぐみながら、うんと頷く秋山。でも、先生嬉しかったぞ今。というか驚いたぞ。先生が泣いてあたふたしてる時に、秋山、言ってくれたなぁ!秋山!すごいぞ!俺ならずーっと突っ伏してるまんまだ!すごいなぁ、秋山は。この先も大丈夫だ。その勇気を、その一歩を忘れるな。すごいぞ。秋山。泣く教室。あとな、秋山。皆に対して、つまんねぇ奴らだなとか、家でやっとけよとか思ってるだろ。頷く秋山。皆な。いい奴だぞ。俺はな、その高校の同窓会に行ったんだよ。つまんねぇ高校の。なんで?と聞く秋山。なんかな、不意に会いたくなってしまってな、と先生。俺のことなんて覚えてないだろうなって思ってたから、すごく軽い気持ちで行けたんだ。そしたら、そこにいる皆、覚えててくれてなぁ。それだけでも、ここまで生きてきて良かったなって、思えたし。それで、そん時、俺、音楽やってて。バンドなんだけど。小さいライブハウスでしかやったことないんだよ。なのにさ、見に行ったよって言ってくれたりさ。新曲まだ?とかって笑わせてきたりさ。なんか、その時さぁ、あ〜、これかぁ。って。思ったんだよ。皆が、高校の時に楽しそうに話してたのってこういうことかぁって。すっげぇ楽しくて。嬉しくて。青春?って言うのかなぁ。そこにあったんだよ。今かよ!って思ったけど、生きててよかったなって思った。あの時、死ななくてよかったぁって。心底思った。本当に、本当に、死ななくてよかった。それでさぁ、二軒目も行って、帰りが、うーん、深夜一時くらいになったんだよ。帰りは、皆、ばらばらでさ。一人になったんだけど。その日は、全然、一人じゃなかった。一人なんだけどなぁ。おかしいだろ?一人なんだよ?それくらい楽しかったんだよ。皆がまだそこにいるような、余韻に浸れるほど。俺達、陰の人間はさ、暗く重く捉え過ぎなんだよな。ボールは前から来てるのに、後ろ向いて、下向いて、ボールはキャッチ出来なくても拾えれば、友達はできるんだけどさ。ずーっと、後ろの方のくらーい闇にさ、光を探してるんだよ。でも、闇には光なんてないんだよ。当たり前だよな。光がないから闇なんだもん。というか、自分が光だしな。反対に、陽の人間は、多分な、明るく軽く捉えてるんだよ。嬉しいことを言われたら、思いっきり喜んで、嫌なことを言われたら、ちょっと凹む、くらいにさ。陽の人間は一から百で、陰の人間には無数にメーターがあるんだ。色んな感情や色んな恥のメーターが。だから、隠す。そこにある何かを見られて、笑われたりしたら、たまったもんじゃない。今まで耐えてきたものが、一瞬で崩れる。メーターはあればあるほど、出来損ないが増えるからな。ま、なんて言ってるけど。皆同じ人間だ。今のは全て忘れてくれ。他人と比べることが間違いだったんだ。一人が多いとな、考えすぎちゃうからな。秋山も、考えすぎるなよ。大丈夫だからな。何が大丈夫かは、先生も知らないけど。ふふっと笑う秋山。やっと口角が上がる教室。食べ終わったジャイアン。キーンコーンカーンコーン。一時限目開始のチャイム。やべっと言う先生。先生!始まりますよーっとバスケ部。何の授業だっけ、黒板に貼ってある時間割を見る先生。数学ですよーっと彼女。竹原先生かっ!と焦る先生。先生が先生に怒られるーっとハモるバスケ部と彼女とジャイアン。そそくさと軽いランニングをしてドアに向かう先生。宮野先生!と叫ぶ秋山。集まる視線に、つばをのむ秋山。どうした?と宮野。し、質問の答えを、聞けていませんと秋山。あっ、はっはっはっ、ごめんごめん。先生の夢か。えっとなぁ、それはねぇ、、ちゃんとした、、教師になることだよ。
意味がわかるまでじっと、先生を見つめる秋山。じゃあなっと秋山の視線を外し、ドアをガラガラガラッと開ける宮野。ドアの先に竹原先生。うわっと宮野。あ、うわって言った〜と彼女。宮野先生、今、うわって言いましたねと竹原先生。いやぁ、言ってないですよぉと宮野。これは、反省文ですねぇと竹原先生。え、えぇえ〜っと宮野。ゲラゲラ笑う教室。冗談ですよと竹原先生。じゃ!と囁く竹原先生。よろしくおねがいします!と囁く宮野。
宮野先生が言ってくれた言葉を突っ伏しながら反芻する、秋山。始まる授業。教室の後ろの方で、小さくイチャイチャするバスケ部と彼女の声。おい、田中と渡邉!静かにしろ〜っと竹原先生。すいませ〜ん!とバスケ部と彼女とジャイアン。なんで郷家も謝るんだよと体を半回転させてツッコむバスケ部。静かに笑いが起きている後ろ。あ〜。生まれ変わったらバスケ部になろ〜っと軽く思う秋山。