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義務化が進む自転車保険

警察庁「自転車関連交通事故の状況」から引用します。
自転車関連事故件数は減少傾向にある一方、全交通事故に占める構成比は近年増加傾向にあります。

(出所)警察庁「自転車関連交通事故の状況」を加工

 
また、自転車乗用中の死亡・重傷事故件数のうち、約4分の3には自転車側にも法令違反があります。これは、自転車側が加害者だったケースと被害者だったケースとを合わせたデータです。

(出所)警察庁「自転車関連交通事故の状況」を加工

 
さらに、警察庁はつぎのとおり指摘しています。
・自転車運転者の法令違反が原因で、歩行者や自転車運転者が死亡したり重傷を負ったりする事案が発生している
・交通ルールが遵守されていれば、悲惨な事故の防止につながった可能性がある
 
自転車には、自動車の自賠責保険のような強制保険はありません。
最近は、自転車を運転していた加害者が事故を起こして数千万円もの高額の損害賠償を命じられる判決事例もあります。
自らが保険に加入していなかった場合、事故の加害者になった際に高額な出費を強いられる可能性があるのです。
 
そうした実態を踏まえ、近年、自転車事故の被害者救済の観点から、自転車保険への加入を義務付ける都道府県が増えてきています。
自転車保険とはどのようなものか、注意すべきポイントなどについてお話しします。


1 自転車保険の加入義務化の現状


国土交通省は、都道府県に対して、条例等による自転車損害賠償責任保険などへの加入促進を要請しています。
加入義務化の条例改正は2015年に初めて兵庫県で導入され、その後、多くの都道府県で義務や努力義務とする条例が制定されています。
2024年4月時点での都道府県別の状況はつぎのとおりです。

(出所)国土交通省のウェブページ

2 自転車保険とは


自転車保険は必ずしも「自転車保険」という名称である必要はありません。
自転車事故に備えられる保険は、個人賠償責任保険と傷害保険とがセットになった商品が一般的です。
事故の相手への賠償と自分自身のケガの両方に備えることができます。

(1)個人賠償責任保険


自転車事故で他人にケガをさせたり、物を壊したりした場合の損害賠償をカバーします。
 
①補償内容
 
㋐対人賠償責任
たとえば、自転車で歩行者にぶつかってケガをさせた場合、その治療費や慰謝料をカバーします。
 
㋑対物賠償責任
たとえば、自転車で他人の家のガラス戸にぶつかって割ってしまった場合、その修理費用をカバーします。
 
②契約方法
個人賠償責任保険のみを契約する単独契約によるほか、火災保険や自動車保険、傷害保険などに特約として付帯する方法もあります。
 
③家族全体をカバー
個人賠償責任保険は、ひとつの契約で家族全体をカバーすることができます。
一般につぎの人々の賠償責任をカバーします。
・本人(被保険者)
・本人の配偶者
・本人または配偶者と同居の親族(同居の子を含む)
・本人または配偶者の別居の未婚の子
 
たとえば、父親の自動車保険の特約として契約している場合、母親や子どもの自転車事故もカバーされます。
 
④注意点
故意に他人にケガをさせたり、財産を壊したりした場合は補償されません。
また、自動車事故は自動車保険でカバーされるため、個人賠償責任保険の対象外となります。

(2)傷害保険


傷害保険は、日常生活や仕事中などに発生する予期せぬ事故により、自身のケガなどを補償する保険です。
 
①補償内容
おもな補償内容はつぎのとおりです。
 
㋐死亡保険金
事故によるケガが原因で死亡した場合に支払われます。
 
㋑後遺障害保険金
事故によるケガが原因で後遺障害が残った場合に支払われます。
 
㋒入院保険金
事故によるケガで入院した場合に、入院日数に応じて支払われます。
 
㋓通院保険金
事故によるケガで通院した場合に、通院日数に応じて支払われます。
手術保険金:事故によるケガで手術を受けた場合に支払われます。
 
③特徴
 
㋐急激かつ偶然な外来の事故が対象
たとえば交通事故など、突発的で予測できない外部からの事故によるケガを補償します。
 
㋑病気は対象外
たとえば心臓発作など、病気や体内で発生する問題は補償対象外です。
 
㋒定額払い
保険金は契約時に定めた金額が支払われます。
複数の保険契約があっても、それぞれから保険金を受け取ることができます。
 
④契約方法
傷害保険は、単独で契約するほか、火災保険、自動車保険、生命保険などに特約として付帯することもできます。
 
⑤種類
傷害保険にはつぎのようにさまざまな種類があります。
 
㋐普通傷害保険
日常生活全般のケガを広くカバーします。
 
㋑交通事故傷害保険
交通事故によるケガに特化した保険です。
 
㋒旅行傷害保険
旅行中のケガを補償します。国内旅行と海外旅行の両方に対応するものがあります。

(3)付帯サービスや特約


最近では、つぎのような付帯サービスや特約を付帯できる自転車保険もあります。
自転車事故後に必要なさまざまな対応がスムーズになります。
 
ⓐ示談交渉サービス
事故後の被害者との示談交渉を保険会社が代行してくれるサービスです。
 
ⓑ弁護士費用補償
事故後に弁護士に依頼して損害賠償請求を行う場合の費用を補償します。
 
ⓒロードサービス
自転車が故障した場合に、修理や搬送を行うサービスです。
 
ⓓ車両盗難特約
自転車が盗まれた場合の補償です。
とくに高価なスポーツサイクルなどに有効です。

(4)TSマーク付帯保険


TSマーク付帯保険は、自転車安全整備士が点検整備した安全な自転車に貼られるTSマークに付帯する保険です。
 
①補償内容
 
㋐賠償責任保険
賠償責任補償の限度額は、青色TSマークが1,000万円、赤色TSマークが1億円です。
 
㋑傷害保険
入院15日以上で、青色TSマークが一律1万円、赤色TSマークが一律10万円です。
死亡または重度後遺障害(1~4級)で、青色TSマークが一律30万円、赤色TSマークが一律100万円です。
赤色TSマークのみ、被害者見舞金が入院15日以上で一律10万円です。
 
なお、対物損害は補償対象外です。
 
②加入方法
自転車安全整備店で自転車の点検整備を受けることで取得できます。
点検整備の料金は店舗によって異なりますが、一般的には1,000~2,000円程度です。
 
③有効期間
TSマーク付帯保険の有効期間は、TSマークが貼られた日から1年間です。
毎年、自転車の点検整備を受けてTSマークを更新することが推奨されています。

3 自転車保険に加入する際の注意点

(1)個人賠償責任補償の額の妥当性


他人にケガをさせたり、財産を壊したりした場合の賠償額が十分か確認しましょう。
賠償額は数千万円から1億円以上になることもあります。

(2)自身のケガに対する補償の妥当性


自転車事故で自身がケガをした場合の治療費や入院費をカバーする補償内容が十分かを確認しましょう。
入院給付金や手術給付金が含まれているかも重要です。

(3)家族の事故の補償の必要性の検討


被保険者のみを補償対象とする個人型と、被保険者とその家族も補償対象とする家族型があります。
配偶者や子が自転車事故に遭った場合の補償が必要か、家庭の事情に合わせて検討しましょう。

(4)付帯サービスの必要性の検討


示談交渉サービスや弁護士費用補償、ロードサービスなど、自分が必要とする付帯サービスが含まれているか確認しましょう。

(5)保険の重複がないか確認

すでに加入しているほかの保険でカバーされている内容と重複していないか確認しましょう。
特約として個人賠償責任補償が付いている場合、自転車事故の場合の賠償もカバーできるケースがあります。
 
つぎのような保険に特約として付帯されることが多くあります。
 
①自動車保険
自動車事故以外の賠償責任もカバーする特約として追加できます。
 
②火災保険
家財や建物の保険に加えて、日常生活での賠償責任を補償する特約があります。
 
③傷害保険
自分のケガや事故に対する保険に、個人賠償責任を特約として追加できます。
 
④クレジットカード付帯保険
一部のクレジットカードには、個人賠償責任保険が付帯されていることがあります。

4 自転車事故に遭った際の注意点


実際に事故に遭った際は冷静に対応し、適切な手続きを踏むことが重要です。
 
(1)事故直後の対応
 
①安全確保
事故現場の安全を確保し、二次事故を防ぐために周囲の状況を確認します。
可能であれば、事故車両を安全な場所に移動させます。
 
②負傷者の確認と救護
自分やほかの負傷者がいる場合は、応急処置を行い、必要に応じて救急車を呼びます。
大きなけががある場合は無理に動かず、安静にして救護を待ちます。
 
③警察への通報
事故が発生したら、法律で義務付けられているので、必ず警察に通報します。
警察が到着したら、事故の状況を正確に伝え、事故証明書を発行してもらいます。
警察への通報を怠ると、事故証明書が発行されず、後々の賠償請求が困難になる可能性があります。
 
④連絡先の交換
加害者と被害者の名前、住所、連絡先を交換します。
加害者が保険に加入している場合は、その保険会社の情報も確認します。
 
(2)事故後の対応
 
①医療機関での受診
事故直後は興奮状態にあり、痛みを感じにくいことがあります。少しでも異常を感じたら、すぐに医療機関を受診します。
また、受信したら診断書を取得し、治療を続けます。
 
②保険会社への連絡
自分が加入している保険会社に事故の報告を行います。
保険会社からの指示に従い、必要な手続きを進めます。
 
③示談交渉
治療が終了したら、加害者側と示談交渉を行います。
示談交渉が難航する場合は、弁護士に相談することを検討しましょう。
 

 
もっとも大事なのは、自転車事故に遭わないことです。
日ごろから交通ルールを守って安全運転を心がけましょう。
合わせて、万が一に備えて自転車保険へ加入しておくことも重要です。

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