棒が1本あったとさ
今年のお正月は、のんびりしました。
これ以上はないというくらい、ダラダラしました。
昨年春、夫が単身赴任先から帰国。
このご時世で2年以上帰国できなかったので、今年はやっと久しぶりに家族水入らずで過ごすお正月でした。
本来なら、張り切って久々の日本のお正月を迎える、となるところなのかもしれませんが、12月半ばに夫が体調を崩したこともあって、
おせち適当でいいじゃん。
年越しそばもなんでもいいじゃん。
掃除もほどほどでいいじゃん。
初詣は年末に行っとけばいいじゃん。
ああ休みだ休み。
会社員も休み。
学生も休み。
主婦も休みじゃ~い。
そんな気分で家族全員、心ゆくまでグウタラしたのです。
そして三が日も過ぎようとする朝。
流石にお掃除しようと、クイックルワイパーを納戸に取りに行きました。
ふふ。
なんと言う背徳感。
3日ぶりの掃除が許されるのだ、今年の正月は。
私が私に許した。ほほ。
なんて思いながら、ガラリと扉を開け、いつもの場所を見やりましたが、なぜか見当たらない。
あっれぇ?
おっかしいな。
大掃除終わって、ココに入れたはず。
あちこち探し回って、でも見当たらない。
最後に息子の部屋を訪れたところ、ある。ありました。
しかもなぜか、長方形の先端部分がない柄の部分だけの状態で。
我が家には、普通のクイックルワイパーだけでなく、小さくて柄が短い「トイレクイックルワイパー」なるものもあります(私はこれを、トイレではなく網戸の掃除に使用しています)。
息子の部屋で見つかったブツには、ワイプする部分の代わりに、トイレ用ワイパーの柄の部分が外されて接続され、エクステンドしてありました。
つまり、通常より長い、棒の状態で、息子の部屋の角に立てかけてあったのです。
はぁ?
どういうこと?
なんでこれがこんな変わり果てた姿でここに放置されているのだ。
普段、すぐ使えるように、先端の部分を外すことなんてありません。
リビングにいた息子に問いただすと、オラ知らね。の一点張り。
「何言ってんの。あんたの部屋にあったんだよ。まちがいなく、あんたの仕業でしょ」
「だから俺は知らねーんだよ。部屋にあったことだって今知ったよ」
息子は頑として知らないと主張。
「ちょっとぉ。勘弁してよ。何しらじらしい言い訳しているわけ?」
私のただならぬ剣幕に、夫も様子を見にリビングにやってきました。
私は息子の、寝てばかりで怠惰を極めて過ごしたこの3日間の様子を思い出し(私も同じだったのですがね)、さらにはしらばっくれる様子を見ているうちに、正月の間に眠っていた怒りに火がつきました。
「ふざけないで。じゃあ、なんであんたの部屋にあったの?いったい何に使ったの!」
「何に使った・・・って・・・」
「言いなさい!何に、使ったの!」
しん、とした間があり、ふと気づくと夫と息子が私をじっと見ています。
「ねえちょっと。答えてマジで。真剣に聞いてんの。何に使ったの!言いなさい!」
私はクイックルワイパーの長くなった柄を横に持って突き出しながら息子に迫りました。
すると突然、こらえきれなくなったように夫が笑い出しました。
なぜか息子も「ぷっ。くくっ」という感じで笑い出します。
ちょっとっ💢
「いやぁ、包丁やハサミがあったんならともかく、ただ棒があっただけだし」
と、夫。
「何に使ったのって、それそのまま返すわ。なんで連結した?」
と、息子。
「私はちゃんと元の場所に戻しましたっ!先端だけ外して、柄を連結するなんてジョーシキじゃ考えられないでしょっ」
私は自分が嫌疑をかけられたことに憤りを感じ、早口で抗議。
抗議しながらも、だんだん可笑しくなってきてしまいました。
何、これ。
なんなの、このシュールな状況。
なんで私こんなに怒ってんの?
これが更年期マジックなの??
それからは、果たして誰がその棒を制作し放置したかという謎についての推理、あるいは責任のなすりつけ合いになりました。
推理その①、誰かが家に侵入し、クイックルワイパーを棒にした。
推理その②、息子が何らかの目的でワイプ部分を外し、部屋に置いた。
推理その③、夫が騒動を巻き起こすために息子の部屋に置いた。
推理その④、誰か(特に私)が何か上にあるものを取ろうとした。
推理その⑤、誰か(特に私)がなにかを押しこもうとした。
推理その⑥、私が普通のワイパーと窓ふき用を同時に片付け中、何か別の事に気を取られて慌てて連結し、そのまま放置した。
誰かが侵入って、誰だよ!
何の犯罪だよ。
こえーよ!
なんだよ騒動巻き起こすって!
げらげら笑いだす家族。
しまいには爆笑。
もはや、初笑い、福笑い状態です。
結局ふたりとも、考えうる限り犯人は私しかいない、というのですが、私にはそんな記憶がありません。
そもそも柄を拡張する意味がわからない。
でも私、これまでの人生でそういうことを数限りなくやらかしてきています。
私(妻・母)ならやりかねない・・・
私を含め、家族の誰もがそう思っている中、寝正月のマンションの一室という「密室」において、「犯人は自分以外の誰か(っていうか母だろ)」という疑惑に包まれる三人。
が。
やったという確たる証拠はないにもかかわらず、次第に「自分がやったのかも」という気分になってきた私。
「冤罪、ってこういう気持ちなんじゃないかな。こうして自白させられるんだきっと。そんで、自分でもやったような気になっちゃうんじゃないかな」
息子に罪を着せかけたのにそれは棚に上げてそう言うと、
「自分の胸に手をあててよく考えてみるんだな」
と、しんみりと夫。
はぐれ刑事か!
笑い飽きた息子は「もうええわ」と自分の部屋に行ってしまいました。
ううう。
確かに、棒が一本あったから、何・・・
何だって言うの・・・
そしてたぶん。
たぶんだけど、それ・・・きっと
私がやった、―――んじゃ、ないかな!
わかんない、記憶ないけど。
2、3日経って夫。
「仁王立ちになって鬼の形相で何に使ったの!言いなさい!って激しく息子に詰め寄ってる絵が面白すぎて」
思い出すとまだ笑える、そうです。
そして、
「やっぱお笑いの基本はボケの真剣さだな」
クイックルワイパーの柄。
あなたなら、どんな犯罪に使いますか。