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土日祝日という名の荒野

 夫が発熱した。
 結構な高熱だ。

 月曜が祝日の、土曜の夕方。
 なんという間の悪いときに熱が出てしまったのだろうか。

 土曜日はかろうじて受診できる病院があるが、日祝はほとんどの病院が休みになる。救急外来があっても発熱外来がなければ熱の時は受診もできない。

 幸い、我が家には抗原検査キットがあった。 
 抗原検査を2回して陰性。
 インフルエンザの検査キットはないのでわからない。

 土曜はまだ元気で食欲もあったが、日曜の夜から辛そうになり、食欲も落ちた。

 熱が下がらなければ消化能力が落ちて体力が失われる。
 高熱はなかなか下がらない。
 大人の39度が続くのはかなりつらい。

 実は夫、すでに半月前に体調を崩しており(コロナでもインフルエンザでもない疾患で)、それから解熱鎮痛剤ロキソニンを飲んでいた。

 まだ残っていたロキソニンだけが頼り。

 そもそも体調が本調子でなかったので、連休中にどこかで診察を受けられないか、せめてオンライン診療でもないかと思い、無駄と知りつつ、自治体の発熱相談センターに電話した。

 いつからどのような状態かを聞き取った後、かかりつけ医はいるかと聞かれた。

 基本的に「電話をする前にかかりつけ医に相談して」と書いてあるので、「かかりつけに相談できない場合」しか電話しないはずなのだが、絶対聞かれるだろうな、とは思っていた。マニュアル的に。

 かかりつけ医に関しては、実は今も悩んでいる
 いちおう、一番近所の野戦病院(と勝手に思っているクリニック)に行っているが、果たして、あそこはかかりつけなんだろうか。といつも思っている。
 でも仮にあそこが我が家のかかりつけだったとして、もちろん休みだ。
 休みだから電話してるのだ。

 どこも休診なのでお電話しているのですが。

 そう言うと、お調べいたしますので少々お待ちください、と言った。

 きっとネットと同じ端末で調べるんだろうな。
 そう思いながらなんの曲だったか忘れたが保留のオルゴール曲を聞いた。

 お待たせいたしました。
 お住まいの地域で、日祝で診察を受けられる病院はありません。
 緊急の状態になったら救急車を呼ぶか、自分で救急外来に行ってください。連休明けの火曜日ならご案内できます。

 木で鼻を括ったようなお返事だった。

 うん。
 連休明けなら、普通に病院やってると思う。
 
 ・・・この声は、心の中にしまう。

 わかりました、ありがとうございますとお礼を言って、電話を切った。
 まるで聞きなれた英会話スキットのように最初からわかりきっていた問答だった。

 とはいえ、マニュアル通りの「緊急のときはためらわずに救急車を」には少し違和感を感じた。

 もちろん「ためらわず救急車」の場面はある。
 でもそれが「いつ」なのか、素人に判断しろというのは無理がある。

 熱の他にどんな症状があるのか、顔色や呼吸、経口から食べ物や水分を摂取できているか、排せつできているか、話ができるかなど、全体の状況、他の症状を見極めて、救急車を呼ぶものなのだろうが、今の状況がどんな状況かなんて、素人にはわからない。

 熱が高くて辛そうにしていたら「重症」に感じるし、何とかしてあげたいと思う。子供や赤ちゃんならもっとそう思う。

 医療もひっ迫するわけだ。

 まあ、間が悪かったのだ。
 それはもう、仕方がない。

 私の頭の中にはドラマ『大草原の小さな家』のテーマが流れていた(そういえば今アンコール放送中だった)。

 ここは荒野だ、と思おう。

 先日私は記事(『やらなすぎず、やりすぎず』)の中で、

我々は、水が豊かで洗剤もあり、消毒もあり、性能のよいマスクや換気設備もあり、希望すればワクチンも打てる、医療もなんとかいきわたる、世界でも有数の「清潔国」に住んでいます。

 と書いた。

 確かに、「医療も何とかいきわたる」国には違いないのだが、連休中の発熱の実感は、荒野である。

 『大草原の小さな家』で、インガルス一家の住むミネソタ州のウォルナットグローブには、ベイカー医師がいた。

 ベイカー先生は昼夜を問わず往診してくれたものだった(まるで自分の記憶のように言うがドラマの話)。

 もちろん、ベイカー先生だって、他で急患だったら来てくれない。
 キャロラインが産気づいたときも確かすぐに駆けつけられなかった。
 待望の男の赤ちゃんが病気の時も来れなかったんじゃなかったっけ。

 街でたったひとりの医師なのだ。
 
 150年前、1800年代後半にフロンティアにいた人々の苦労が偲ばれる。
 それに比べたら丸2日間何の手立てもないくらい大したことはないはずだ。実際、どんな時代だって人々はほとんど自己治癒力で病気を治してきた。高熱だって、菌やウイルスを退治するために必要だから出てるんだから。

 そう思って、ひたすら布団をかぶって朦朧としている夫に「火曜日まで、頑張って」と伝え、息子にポカリスエットを買いに走らせた。

 にしても、これ。

 ひとり暮らしだったらどうするのだろう。
 夫だったらまだいいが(いいのか?)、子供だったらどうしよう。
 それもうちみたいな中学生はまだしも、小さい子だったら。

 「この二日間、受診できる病院はひとつもありません」

 と言われた時の母の気持ちはいかばかりか。

 この3年で、日本国民はとにかく自力で病気を治す体力と気力をまず身につけなければならないのだという思いを強くしている。
 健康な時に、抗原検査キットやなにかしらの薬をキープしておくのも大事だなと思った。

 そのうえで、ある程度知識と判断力をつける必要があると身に染みた。

 とにかく、祝日明けには病院に行けるんだから。

 と、思ったら!

 祝日明けはなぜか病院が軒並み午後診療か、休み。

 えっ?という感じだ。
 どういうわけか病院に関してだけ、連休が続いてしまっているではないか。もしかして、年末年始頑張ったからこの連休はお休みしている病院が多い、とか?

 年始の病院への受診は、成人式までは本当に注意が必要のようだ。

 さて後日。
 夫の熱は抗生剤の必要なものだったことが判明。

 現代医学では、早めに抗生剤を飲んでいたら、あんなに長々と高熱に苦しまなくてもよかった感染症だった。

 






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