シルクロードへの夢と憧れがつまっている【神坂智子】
少女時代、というのがこのわたくしにも存在いたしまして、その当時「ど」ハマりしていたのが神坂智子さんです。
残念ながら、引っ越しを繰り返すうちに手放してしまったようで見つかりません。そのため記憶を頼りに書いております。
どれがいちばん、とはとても決められませんが、しいて言うならこちら。
現在この中に収められているかどうかはわかりません。ともかく、始まりは「はるかなるシルクロード」という短編でした。単行本としてはもう古本でしか手に入れられないようです。
シルクロードシリーズは、SFというか、大河ドラマというか、時間や空間を飛び越えたり、地球ごと輪廻している世界観で、その壮大さと、人間くささを残す神々と人間の織りなす物語に惹きつけられました。
だいたいが一話完結のオムニバスで、時系列も登場人物もバラバラです。各地の伝説や民話なども題材にしていますが、天山山脈に住む少数民族の神(テングリ)と人間たちとの物語が中心になっています。
この神様たちはもともと人間で、前世の地球において滅亡しそうになっていた人類が、セーヤとアーニャという夫婦の遺伝子から人工子宮によって生まれた子供たち(きょうだい)です。銀鈴を持っていて、その鈴の音に反応します。十人だったのですが、長のオリジンが抜けて九人となり、長い年月が経ってから、オリジンの子孫であるシオリという日本人の女性がはいってまた十人になりました。シオリ以外は全員が男性で、長い金髪と碧眼が特徴です。シオリもテングリになってその姿になりました。
私は中でも『巻き毛のカムシン』という、熱風の神(神々の中では六男)が、人間の女性と恋に落ち、彼女が老いて死ぬまで添い遂げた話が大好きでした。
1980年代に喜多郎のシンセサイザーのテーマで有名な『NHK特集 シルクロード -絲綢之路(しちゅうのみち)-』という番組がありました。NHKアーカイブスの放送史というサイトには、
と、あります。
番組は大ヒットし、続編が制作され、一大ブームになりました。この放送史も大変興味深い情報が満載です。この企画が現実のものになるまでには、なんと7年もの月日が経っていたとか。
神坂智子さんが「はるかなるシルクロード」を描いたのは1981年です。
単行本の各巻には神坂さんが旅をした中東や中央アジア、中国の旅行記などもついていて、それもなかなか読みごたえがあって楽しみでした。ロマンはたっぷりだけれども、衛生的に不安になるようなトイレの話とか、果敢に冒険に挑んでいく神坂さんはすごいなぁと感心することばかりでした。シルクロードの旅そのものが困難な時代でもあったと思うのですが、とても活き活きとした楽しそうな旅行記でした。
神坂智子さんは映画「アラビアのロレンス」の主人公トーマス・エドワードロレンスの伝記として『T.E.ロレンス』も描いています。自伝からインスピレーションを得たかなり衝撃的な内容でした。
自らを欺き無理をしながら得た結果が、次第に彼自身を壊していく過程や、映画では描かれきれていなかった、偶像的英雄になってしまってからのロレンスも丁寧に描いていて、最終的に彼が亡くなるまでの精神的葛藤は、途中から読むのがつらくなるくらいでした。少女漫画としては少々刺激的な描写もありましたが、名作だと思います。
神坂智子さんの作品には砂漠の少数民族がたくさん出てきます。『T.E.ロレンス』にも砂漠の民が登場して、ロレンスに強い影響を及ぼします。シルクロードシリーズでもそうですが、神坂さんの目はたびたび、忘れ去られそうになりそうな、小さなものが持つ誇りに向けられます。
『カレーズ』という作品には、まるで「100万回死んだねこ」のように何度も輪廻転生を繰り返す、オッドアイの少女が出てきます。カレーズというのは天山山脈の水をひく深く長い地下水路のことで、その水路を潜るたびに少女の魂は転生します。
宇宙や輪廻や宗教や、ともすれば壮大すぎる世界観を小さき魂の目線で語る、神坂作品の数々。遠くインドのブラフマンとアートマンの梵我一如の世界のようでもあり、今のマインドフルネスに通じるようでもあります。人間の根源的な問い「自分はなにものか」といったことに踏み込む作品が多いのですが、スピリチュアルに走りすぎないのは歴史ロマンとうまい具合に融合しているからなのかもしれません。
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