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Fan letter 6 宿る☆アヴちゃん


(↑全員、アヴちゃん)

 2011年にデビューした「女王蜂」。
 私が出会ったのは、新型感染症の流行前ですが、わりと最近。

 初めて聴いた歌は、たしか「Introduction」だったような気がします。1曲聴いて、すぐに次々とYouTubeで曲を探しました。アヴちゃんの「巫女性」にぐっと心を掴まれてしまったのです。

 私は音楽を生業にしたり楽器を弾いたり、歌い踊る人は「巫女」や「神官」に似ていると思っていて、アーティストはみんな神事をする人だと思っているのですが、アヴちゃんは中でも特に「巫女」系だなと思っています。

 アヴちゃんには、彼、とか彼女、という表現ができません。アヴちゃんはアヴちゃん。唯一無二。ハイヒールとミニスカートで、長い足を見せながら歌い踊ったかと思えば、クールでカッコいい男の子になったりする。ナチュラルなファルセットの4オクターブの声で、まるで男女のダブルボーカルのように歌います。

 最初、男女二人で歌っているのかと思うんですよ。でもどの曲も、アヴちゃんひとりで歌っています。

 デビューアルバムは『魔女狩り』。第二弾セカンドアルバムが『蛇姫様』というのですが、いやーこの『蛇姫様』って文字を見たときは、戸川純さんを思い出しました(戸川純アンテナ再び。笑)。

 かつて戸川純さんの『玉姫様』にハマっていた私。
 確かにちょっとだけ、似てるところが。
 そこはかとない狂気とか。
 傷だらけの痛々しい歌詞を声色使いで歌うとか。

 ちなみに女王蜂には『泡姫様』や『砂姫様』『人魚姫』『歌姫』という曲もあります。
 どれもなかなか激しい「姫」です(『蛇姫様』は『歌姫』が収録されたアルバムの名前で、蛇姫様という名前の曲は確かなかったはず)。

 「女王蜂」は神戸出身のロックバンド。ロックというよりダンスミュージックのイメージが強いです。アヴちゃんも「自分たちはロックをやっている意識はない」と言っています。

 何より惹かれるのは曲やアルバムの持つ物語性。

 メンバー全員、本名、生年月日、性別、国籍など未公表ですが、アヴちゃんはここ最近のインタビューなどで「イスラム圏と日本のハーフ」であることや「クリスマス生まれ」「身長180㎝」など、少しずつチラ見せしてくれています。ドラムのルリちゃんは実妹で、ふたりは「姉妹」。アヴちゃんは女の子扱いされて育ってきたそうです。バンドのメンバーも姉妹に負けず劣らず魅力的。やしちゃんはベース、ひばりくんはいちばん新しく加わったメンバーでギター。

 イスラム教の名前を持ち、日本でクリスマスに生まれて、仏教徒。神戸生まれで小さい時に阪神淡路大震災にあっている。中島みゆきを聴いて「セーラームーン」で育った、アヴちゃんは自身をそのように表現します。やりたいことはいっぱいあったけどやれなかった、学校や音楽シーンは何か馴染めないものを感じた、だからバンドを組んでライブをすることにした、とインタビューで言っています。

鉄壁』みたいに絶唱したり『 Q 』『アウトロダクション』みたいに切なく歌ったかと思えば、『introduction』『デスコ』みたいに弾けたりする。『HALF』みたいにカッコいい系アニソンを歌ってみたりもすれば『傾城大黒舞』で日本の祭りのリズムとポリネシアンなリズムに関西弁が絡まりあったりします。『売春』なんて強烈なタイトルを、完璧に男女を歌い分けて、まるでアヴちゃん二人がそこにちゃんと存在してデュエットしているかのように歌ってるし、なんと表現すればいいのか、とにかく「アヴちゃん」という存在から目が離せなくなるのです。

 ちょっと2.5次元。いやもしかしたら、いろいろはるかに超えてしまっているので5次元くらいなのかも。男でもあり女でもあり、アヴちゃんはジェンダーを超えて、いろんなものを併せ呑んで飲み込んで誰にも何にも責任を転嫁することなく生きてる感じがします。

 少し話がそれますが「駐妻記」で、タイの男女の双子の迷信について触れたことがあります。
 男女の双子は前世で結ばれなかった男女が現世に生まれ変わってきたものだから、幼いころに結婚式をしてその思いを遂げてあげる、そうするとふたりとも幸せに生きていくことができる、という伝承です。

 アヴちゃんを見てると、双子が同じ身体に入ってるみたいだなと思うのです。

 ポップで軽いリズムやノリの中に、唐突に差し込まれるナイフみたいな情念を感じさせる歌詞がいいです。

「簡単な英語しかわかんない」
「試されてるいつもいつでも 恵まれているかどうかを」
「半分なんて思ったことないぜ」
「生まれてみたいから生まれてきただけ」

『HALF』の歌詞より

 この「生まれてみたいから生まれてきただけ」という歌詞には、ハッとさせられました。

 本物はどこかな
 偽物なんてあるのかな
 みんなが知ってる正解はきっと
 誰かがついたはじめての嘘

『虻と蜂』より

 時々インスタを観るので、しばらく前から、超人気クリエーターたちが手掛けたアニメーション『犬王』の情報が流れてきてました。

 2022年5月28日公開。

 古川日出男氏の小説『平家物語 犬王の巻』を基にしたミュージカルアニメ、だそうです。
 室町時代を舞台にした、能楽師と盲目の琵琶法師の友情の物語で、アヴちゃんと森山未來さんが声優としてダブル主演。

 観た方のレビューなどを見ると、アヴちゃんの歌声がすごく良かったみたいです(アニメーションや全体の評価は人によってまちまち)。
 サントラをちょっと聞いただけですが、『傾城大黒舞』っぽいのかなと思いきや、「語り」が入るんですね。

 『竜中将』という曲は予告編にも流れていた曲ですが、配信で聴いただけでもアヴちゃんの声すごいです。そして森山未來さんもダンサーの印象が強かったですが、歌も上手でビックリしました。

犬姫』のMVもなかなかドキドキする物語です。


 『女王蜂』の曲の全部が好きか、と言われると、全部とは言いきれないのですが、ポップでロックでダンスな曲と歌詞の中に「祈り」と「決意」が込められているのは、いつも感じます。
 そしてこの世で起こるすべては「チャレンジ」なのだというメッセージ。
 「試されている」という言葉がよく登場します。
 それを乗り越えるのは「意志」。

 自分の「コア」を信じる、という決意。
 信じたいという願いと祈り。

 『夜天』には、特にその、決意と祈りを感じました。

あの頃には戻れないことを思い知るの
それでも喜びはいつも見出すものと 
忘れないでいたい

思い詰めてしまった夜の果てわたしたちは出逢い
持ち寄る孤独は星たちのように、胸に宿り
胸に宿し続ける

『夜天』より

 アヴちゃんの書く歌詞は、抒情的リリカルですが、わかりやすい軽さと現代性を備えていて、皮肉アイロニカルでも感傷的センチメンタルでもないのがいいと思います。

 特に『夜天』の歌詞(もちろん曲も歌も!)は最初から最後まで素晴らしいです。全文掲載したいくらいです。

 私がこの曲に感じたのは、この新型感染症流行下での生き方、です。

例えば言葉の全てに力をなくしたとしても

 というのが最初の一文。

 力をなくしたのは「言葉」そのものでもあり、「自分」でもある。
「メディア」でもあるし「SNS」でもある。

 この何年かで変わってしまったのは「言葉の世界」なんだと、アヴちゃんは言うのです。
 たとえコミュニケーションそのものが変わったとしても、人の心の奥底にある美しいものは侵害されない、というメッセージ。
 確かに変わってしまったかもしれない、人はより孤独になってしまったかもしれない。
 だけど喜びを常に自分の心の中に見つけたいねという、励ましなのです。

 孤独だからこそ、それぞれが互いを思いやる気持ちは星のように心に宿る。そしてそれを、宿し続けるのはその人の意志。

 負けないで、と。

 やはりアヴちゃんは巫女。
 その魅力にはとても抗えません。

 アヴちゃんの中には何か壮大なものが宿っていて、それを引き受けている、そんな気がします。








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