単純
「あの人素敵!」
とか、
「あの娘(こ)可愛い!」
とか、
思ったとして
実際に顔を合わせると、
ドギマギして会話も何もかも上手くいかない。的な。
自分も含めて良いな、と思った人を目の前にするとそういう結果が残念ながら「一般的」なのかもしれない。
1年程前から
週に数回という頻度でジムへ足を運び、
トレーニングや走り込みをするようになった。
勿論、人間だから気が向かない日、
滅茶苦茶にやる気に満ち溢れている日もある。
しかしトレーニングマシーンや器具に触れ、
筋繊維を切って痛めようが、走り込みをして息を切らし脚を痛めようが、
後悔した事は1度もない為、何となく続けられている1つの趣味のようになっている。
何ならやらなければ不安になるほど
宗教染みて来たような気もする。
そのトレーニングジムは男女混合に運動を行える施設で、思っている以上に老若男女に溢れていて混んでいる事もよくある。
朝に足を運べば、夜の匂いを多少感じざるを得ないお姉様。
恐らく週何度かのコレが習慣なのであろうおじいさん、おばあさん。
夜に行けばお仕事終わりであろうサラリーマントレーニー、学生さんや主婦の方、そしてゴリマッチョ色黒トレーニーや外国人ゴリマッチョメン、様々な用途、目的で利用する方々で溢れている。
共用のジム内にある棚にはタオル、ドリンク、そして様々な持ち込みプロテインにEAA。スマートフォン。
とある晩に訪れた俺も小さな隙間を見つけて共用の鉄製棚にドリンク、携帯電話を置き、トレーニングを開始する。
愛用のAirPodsから流れるトレーニング用の様々な音楽ジャンルを鼓膜に響かせながらトレーニングマシーンの「ガチャコン!」という音を鳴らす。
その傍ら、俺の視線はおへそを出しながら汗を流す綺麗でシュッとされたお姉さんへと流れる。
しかしその綺麗で感じの良さそうな、
如何にも意識高いです系お姉さんは
大体例のゴリマッチョトレーニー or 外国人ゴリマッチョメンの相方であるのだ。
そんな中俺はこの後、なんとも言えぬ歯痒い出会いに遭遇する。
一際華やかなオーラに身を包みながら軽やかに、更にスマートにトレーニングをこなす、可愛らしく背の高い、小顔で爽やかなイケメン青年を目撃する。
「 どっかで見たことあるなぁ。てか前髪結んであげてる。かわいい!」
俺は男性に恋心を抱くタイプの人間では無い。と言うことをここで御理解願いたい。
何故なのだろうか。
その青年からしばらく目が離せなくなってしまった。
彼は俳優の高杉真宙さんに激似なのである。
俺は彼に負けじと重りを上げ続けた。
彼は主に胸周りのトレーニングマシーンを利用している。
ほっそりとした彼はきっと
「あっ、胸をねぇ、厚くねぇ…。」
と、心の中の俺が呟き出す。
かと思いきや下半身のトレーニングマシーンも使い出した!
この通り、トレーニング中の俺の目線は彼に釘付けなのである。
更に負けじと自らも下半身、背中、腹筋、胸という順にトレーニングを。気がつけば1時間以上。
頑張った。
有難う。高杉さん。
貴方に負けぬよう、格好良い所見せたかったんだよ。
筋トレを終え、水で割ったプロテインを飲み干す。
トイレに寄ろうとその場を移動した俺は、
ここは動物園などにいる愛嬌溢れる小型動物の
エサやりイベントの光景と何処と無くリンクした、なんとも微笑ましい感情を抱くのだ。
トレーニング後の高杉さんは、
よくスーパーやコンビニなどで購入出来る
3本入り位の醤油団子を美味しそうに1人ちょこんと椅子に座り頬張っていたのである。
「可愛い。可愛い過ぎるぞ。タンパク質じゃなくて糖質を摂取するタイプとは。可愛い。」
なんか可愛い。
合ってる合ってる。この人に合ってる。
団子だよね。うんうんうんうんうんうんうん。ま〜じ可愛いんだけど。
勿論俺達は一言も会話を交わした事は疎か、
一方的に目を向けるこの視線だって合わせた事は無い。
いざ話をしようとも別に大した話なんて自分から出来ないだろう。
でも何故か、また何処かで遭遇できたら良いな。
なんて事を思いながらこの記事を綴っている。
その後、高杉さんは自転車を漕いでの有酸素運動ってのを。
それで俺は彼の目の前で、いつもより速い速度で30分走った。
俺の事何となく覚えていてくれてたらいいなぁ。
恐らく年齢もさほど変わないであろう貴方へ。
「あ!ジムの!」
と、お互いが少し大きめの声を上げて揃えて言い放ち、いつか楽しく会話出来る日を願っています。