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ラブホ水、ビニール一枚の信頼

車の中から、ふとラブホ水が出てきた。

「わ!ラブホ水!」

つい口に出してしまった私に、一緒にドライブ中の旦那とその友人がチラリと視線を投げる。
別にやましいことはない。ただ、ラブホの水って妙に印象に残るのだ。

ペットボトルのキャップに張り付いたビニールのフィルム、重量があり、水がぎっちり入っている雰囲気。
事後に飲むと、妙に冷たくて美味しい感じがする。それがラブホ水。

「それさ、実はビニールいらないんだよね」と友人が言った。

「え、どういうこと?」

話を聞けば、そもそもペットボトルのキャップというのは、開封した瞬間にそれと分かる仕組みになっているらしい。
くるっと回せば、キャップの下部分のリングがパキパキッと割れ、キャップとリングが離れる構造になっている。

つまり、ビニールがなくても開封済みかどうかは、キャップと下部のリングを見れば分かるようになっているのだ。
「ビニールをわざわざ付けるって、コスト増だよな」と友人が続けた。

私は驚いた。あのビニール、実はただの飾りなの?


でも、落ち着いて考えてみると、それも納得だった。
たとえばオレンジ色のキャップのペットボトルは、「加温OK」という意味だと一般的に知られている。あれは、店員やお客さんが「これは温めていいやつだな」と一目で分かるための工夫だ。

ラブホ水も同じようなものなのかもしれない。
ペットボトルのキャップの仕組みなんて、知らない人は意外と多い。
だからこそ、店側もお客さんも「この水は未開封です!」とパッと分かること、安心感を与えるための視覚的な工夫なのだろう。

それに、ラブホテルという場所の特性上、万が一にも水に何かを仕込まれる、異物混入などの可能性を考えたら……ビニールの存在は妙に納得がいく。
ワンナイトの関係、あるいは金銭が発生する関係——残念ながら、どちらも必要以上に警戒するに越したことはないのかもしれない。

ラブホの水に限らず、世の中には「本来は必要ないけれど、安心のために存在しているもの」が溢れている。そのうちの一つが、このビニールなのだ。


私はそっと、ビニールの張られたラブホ水を手に取った。
ペリペリとビニールを剥がし、カチリとキャップを回しながら、友人に返事した。

「でも、結局人はこういう小さな安心を求めてるのかもね」

冷えた水が、喉をすべる。少しだけ、いつもより甘く感じた。

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mip
私が前を向くための力になります。いつか冊子にまとめるのが夢📖