わたしの部屋には霊がいる
※この手の話が苦手な人、閲覧注意です。
みんなこんな体験をしていても人に言わないだけなのだろうか。それともやはり、こんな経験をしている私は珍しいのだろうか。
うちの父親がそうであるように、こういった目に見えない世界の話が苦手、または嫌悪を抱く人がいることもよくわかるし、それが割と普通だろうと思うので、これまで私は積極的にこの話を人にしてこなかった。
どんなに気ごころ知れた友人だって、この手の話は受け入れがたいと言われるかもわからないし、私は母親と妹、弟だけがわかってくれていればそれでよかった。安易に話して変な人に思われるよりましだ(そんなことを隠しても隠さなくても私が変な人であることに変わりはないのだが)。
私の部屋に、とタイトルで書いたが、正確には家に憑いている地縛霊の話だ。私が13歳の頃から付き合っているので、もうかれこれ28年の長い付き合いだ。何度となく実家を抜け出して男と同棲をした期間を抜いても、20年ちょっとにはなるだろう。
昔、私が12歳から30代まで住んだ部屋は、母親が5年ほど前に納戸に変えてしまった。私が実家を出て男と同棲を始め、母親は実家をより残された自分たち(父母)に暮らしやすいように改造した。私の思春期の魂が芽を伸ばした思い出の…というか私の魂はまだその部屋にある気すらする…部屋をつぶして物置にしてしまった。今は納戸と呼ばれて、買い貯めしたトイレットペーパーやティッシュ、ゴミ収集日までのゴミの置き場所となってしまった。何より悲しかったのは、父と私を唯一結ぶ書庫を燃やされてしまったことだ。両親が、書庫の本をすべて二束三文で売り払ってしまったと知った日、私は成人して初めて慟哭した。自分の一部が殺されたような、親友を失ったような、そんな体験だった。この恨みはまだ晴れない。両親は本を燃やす前に私に一言、言うべきだったのだ。燃やされると知っていたならば何としてでも残したのに。この話は別のストーリーとしてまたいつか書くかもしれない。
とにかくその、今は納戸のその部屋が私と地縛霊の出会いの場所だった。13歳を迎えたある夜、私が初潮を迎えたあとだった。妙な幻想を見た。それは夢とも現ともいえなかった。現にいながら幻想を見、幻聴を聴いた。眠りについたかつかないかのあたりだったか、部屋中にラジオが流れ始めた。ラジオは相撲中継のようだった。相撲中継のようだということはわかるのに、何を言っているのか、はっきりとわからなかった。するとやがて天井がサイケデリックに溶け始めた。ピンクのサイケデリックな模様に彩られた、60年代のサイケデリックフィルムみたいに。
こんな感じの世界観が自分の部屋の天井に映った。プラネタリウム見ているような感じで。その夜が私の異体験の始まりだった。
それからは眠りについた後、頻繁に金縛りにあうようになった。壁から手が伸びて足首をつかまれ壁の中に引きずり込まれそうになったこともあるし、幽体離脱も経験した。寝ていると金縛りにあって、魂が(としか言いようがないので魂と表現することにする)身体から抜けて真夜中、家の外まで出て行って、部屋の外から雨戸を見つめていたこともある(私の部屋は二階だ)。魂が私の身体から抜けて天井すれすれまで行って、あぁ、これ以上いくと私は死ぬのだなと何となく思った瞬間に魂が身体に戻ったことも何度もある。
絶対に変なもんが映ると確信はしていたが、それを試すように自分の部屋のベッドに座って写真を撮ってもらったことがある。できあがった写真は私の片足が不自然に肥大したものだった。
金縛りとも違う、骨をつかまれる感じというのか、これは体験した人にしか言い表せないものだが(その体験をした人がいるのかもわからないし、この状態をうまく説明できないのだから、きっと一生だれとも分かち合えないのだろうけれど)、足首や腰骨に、くすぐったいの最大級みたいな体感を与えてくる。くすぐったい時に笑ってしまうのは何故だろう。あれは顔は笑っているがすごく苦しい。強いくすぐったいような体感が朝まで続いて、とうとう眠れなかった日も多々ある。
不思議なルールがあって、私のベッドは窓際にあったのだが、窓のカーテンをきちんと隙間なく閉めていると霊はいたずらしてこなかった。うっかりカーテンをきちんと閉めずに隙間が少しでも空いていると、霊障がある。だから私は必ずしっかりとカーテンを閉めて、洗濯ばさみで留めていた。それでも、少しでも隙間ができてしまったり、うっかりカーテンが開いたままうたた寝なんかしてしまったら、必ず霊が私にいたずらしに来るのだった。時には怖い夢を見せてうなされたこともあった。教科書で習った記憶もあるかないかの白虎隊や、第二次大戦下の沖縄のひめゆりの塔などの鮮明な夢を見たこともあった(目が覚めた時に、それが白虎隊やひめゆりの塔だとわかるのだ)。夢は暗くおどろおどろしく、ただただ恐怖だ。そして、それがただの夢ではなく、霊が私を怖がらせるために見せていることも、わかるのだった。
よく覚えていないのだが私は霊と体の関係を持ったこともあると思う。その時の詳細を覚えていないので文章に起こせないのだが、たしかに大事なところを触られた、誰かが私の身体に乗った、そういったことがあったことは記憶している。色情霊という言葉があると知ったのも、このことからだった。
もう何年もこんな調子でほとほと疲れていた。除霊とよばれるものは私が若くてお金が今よりももっとなかったこともあり、すごく高くて手が出なかったのだが、ある霊視ができるという人にこのことを話したことがある。その人が言うには、それはこの家に憑いている霊、つまり地縛霊だということだった。
最初は窓から私を見て可愛いなと思っていたのだそうだ。それがだんだん私が成長し、いろいろな経験をする姿を見て羨ましいと思うようになったということだった。その地縛霊が何歳くらいの人だとか、男か女かなどは聞き忘れた。
私が思春期を過ごし、30代まで過ごしたその部屋は、私が実家を出たことでお別れになった。実家を出て都内に住んだ家ではそういった不思議な現象は全く起こらず、私の霊感が鈍ったというよりも、実家に何かが居ついていたことを強く確信した。都内で暮らした通算3年のうち、1年間は完全な一人暮らしだったが、私は夜が怖くなかったし、奇妙な体験は一度たりともなかった。
2020年5月。コロナの影響で、また実家に戻ることになった。元私の部屋は今は納戸なので、空いている別の部屋が私の部屋になった。元私の部屋と同じように、窓際にベッドがある。私は都内で暮らした3年間なんの霊障もなかったこの流れで、以前のようにカーテンを閉めるルールを作ったり、必要以上に怖がるのをやめて、「霊感のない女」を演じて実家での夜に臨んだ。
最初の数ヶ月は、なにもなかった。私は霊障を乗り越えたのだ!それとも、地縛霊が住みついていたのは前の私の部屋だけだったのかもしれない。そう思っていた。
しかし、昨年九月から三か月スイスに渡航し、昨年末のクリスマスに帰国してから、また再び霊障にみまわれるようになった。最近は寝付いたかと思ったところで身体に電流を流されたような不快感が続く。寝付いたとおもったら電流を流され、また寝付いたと思うと電流を流されるという地獄。明け方頃くたびれ果てて睡眠導入剤をぶち込んで眠る。いい加減にしてほしい。
先日、眠り鼻からついに朝の5時近くまで何時間もいたずらをされ続けたので、母親にこぼすと盛り塩を枕元に置いてくれた。私のこの霊感は母親の家系からの遺伝で、母方の親族はみな霊感が強い。妹と弟ももれなくその血を引き継いでいて、妹は子供を産む前までは予知夢を見ることがあった。自分が通うことになる高校や、勤めることになる勤務先を、何か月か前に鮮明に夢で見るのだ。弟が大学生まで暮らした部屋には雪女がいた。弟の部屋は日当たりがいい部屋なのにいつも寒かった。冬は特にけた違いに寒かった。ある夏の日はクーラーから女性のすすり泣きが聞こえると言っていたし、弟は実際小学生のあるクリスマスの日、母親からマヨネーズを買いに行くように言われて玄関を出たところで雪女のように真っ白な顔にだらりと長い髪の足のない女性を見たという。
さて、盛り塩のおかげでそれから一週間、怖い夜を迎えずに済んでいる。寝入り鼻、少しおかしな夢を見た気もするが、きっと枕元の塩が霊を祓ってくれている気がしている。
よく言われるのは、波長が低くなっている時はそういうものを引き寄せるよ、ということ。それもたしかにあると思うのだが、ひどく落ち込んでいても出なかったり、すごくいい気分で布団に入ったのに霊障に襲われたりする。前の部屋ではカーテンが閉まっているかどうかが肝だった。今の部屋ではあえてそういったルールを作らなかったので、霊の出現は完全にあちらさんの気分次第なのだ。…書いていてだんだん、私の方がおかしいやつなんじゃないかという気になってくるが、ここで書いていることは何を隠そう本当に私が経験したことの全てなのだ。
私が眠りにつくのが苦手なのは、こういった数々の心霊現象を経験してきて眠りにつくのが怖くなってしまったことも一因だと思っている。
私は今、今夜なにが起こるかにすでに怯えている。こんな記事を書くと、出るに決まっているのだ。でも昨夜のように、塩が霊気を祓ってくれるだろうか。そうであってほしい。
ところで私はこの記事を2回書いている。書いて投稿しようと頭から読み直すと、必ず消した覚えのないどこかが欠けている。書き直してまた読み直すと、また別の場所が消えているのだ。今夜はこんな記事を書いてしまったので、また眠るのが怖くてセックスアンドザシティのシーズン3を見ていたら朝になってしまった。
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