涙色のラムネ
一昨日は、りんご飴とお祭りの話をちょっとだけ書きました。
そういたしましたら、何ともタイミングの良いことに、昨夜はどこからか太鼓の音が聞こえて来まして。
あぁ、どこかで盆踊りをやっているんだなぁなんて、妙にほのぼのした気分になりました。
盆踊りでも、小規模ながら屋台が出ますよね。
屋台といえば、りんご飴、焼きそば、わたあめ、それから……
今日、お弁当を食べながら思い出していたのは「ラムネ」のこと。
なので今日のお話は「ラムネ」の思い出です。
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あの何とも言えない瓶のフォルムと、飲むたびにカチンカチンと音の鳴るビー玉。そして、シュワシュワっとした喉ごし。
氷水に浸かったラムネを見つけると、なぜだか心までシュワシュワと浮き立ってしまいます。
我が家でも、お祭りの時、ラムネだけはわりと簡単に買ってもらえました。
と言っても、わたしは一本まるまる飲ませてもらえたわけではなく、姉達(我が家は三姉妹で、わたしは末っ子です)または父か母と分けあって飲んでいました。
わたしに一本まるっと飲ませようものなら、お腹の中でピーヒャラドンドンと祭囃子が鳴り響いてしまうから。だから、半分こね。
あの頃は、そう言われていたけれど……。
でも、わたし、わかっちゃたんです。
きっと、本当は父も母も自分が飲みたかったんだろうなって。かわいいなって。
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大人も子供も夢中にしてしまう「ラムネ」
でも、今日お話したいのは、実は飲み物の「ラムネ」じゃないんです。
駄菓子屋で売っていた、ラムネの形をしたお菓子のこと。
悲しい思い出の、あの日のこと。
あのお菓子、あなたは知っているでしょうか?
モナカの生地がラムネの瓶の形になっていて、その中に粉末のラムネが入っている、その名も「ビンラムネ」と言う駄菓子を。
細いストローが添えられて売っているので、もちろんモナカに刺して吸ってもいいんです。いいんですっていうか、それが正しい食べ方らしいです。
でも、まぁ、むせますよね。どんなに気をつけて吸ってもラムネの粉はふとした拍子に気管に入ってしまうから、涙目でげんげん言うハメになります。
でもね、それがいいんですよ(笑)。わたしは大好きです。ビンラムネ。
たぶん、初めて買った駄菓子。そして、ちょっと悲しい思い出のお菓子。
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詳しい経緯はもう忘れてしまったんですが……。
その日はなぜか、母が近所の駄菓子屋に連れて行ってくれたんです。いつもは「絶対に行っちゃダメよ」と言っていた場所なのに。
考えてみれば、あの駄菓子屋に母と一緒に行ったのは、後にも先にもその一回だけでした。
本当にいったいどんな風の吹き回しだったのか。
母は「何でもいいから一つだけ選びなさい」と言いました。「だけ」の部分にやけに力が入っていたのを今でも覚えています。
いつもお兄さんお姉さん達が楽しそうにたむろしている場所。憧れの場所。でも禁じられていた場所。
わたしは今駄菓子屋にいるんだ!と思ったら、もう興奮して頭がぐるぐるしてしまいました。
初めて入った駄菓子屋さんには美味しそうなものも、かわいいものも、これどうやって使うの?っていうような訳がわからないものまで、とにかくお店中にぎっちりと物が詰まっていて、それらを一つ一つ、ゆっくりじっくり見ていたい気持ちと、後ろに控えている母からの圧を感じ「早くしなければ」と焦る気持ちが闘っていました。
結局は、母を怒らせたくないという気持ちが勝って、わたしはなるたけ素早くお菓子を選ぶことに集中しました。
このチョコのかかったちっちゃいドーナツがかわいいな。でも、こっちのお砂糖のまぶったカステラが串に刺さってるの、これも美味しそう。わぁ、どうしよう?
必死に選んでいる間にも母の圧がじわりじわりと黒みを帯びてくるのを感じ取り、わたしの背中に冷たい汗がツーっと流れました。
その時です。わたしの目の中に、見たこともないお菓子が飛び込んできたのは。
それはお祭りで飲んだことのある、あの瓶のラムネにそっくりな形をしていました。
瓶を形作っているのは、よくおばあちゃんの家で出される「もなか」とかいうお菓子の外側みたいだけど。
でも、細い小さなストローまで添えられていて、何とも可愛らしい。
わたしは、母を振り仰ぎ「これにする!」と高らかに宣言したのです。
母は「ビンラムネ」を二つ買ってくれました。わたしの分と、五歳上の姉の分です。三姉妹ですが、八歳離れた姉は、もう駄菓子を喜ぶ年齢ではなかったので。
「きっとこのお菓子を見たら、お姉ちゃんも喜んでくれるはず」と、家路を急ぐわたしの胸はウキウキを通り越して、ドキドキと高鳴っていました。
家に着いてもまだ姉の姿はありませんでしたが、あともう少しで学校から帰ってくるはずです。
本当は一緒に食べいから姉を待っていたかったのに、母が「先に食べちゃいなさい」というので、わたしは仕方なく一人で食べ始めました。
ストローをモナカに突き刺すと、ますます本物の瓶ラムネみたいに見えて、わたしは一人にんまりしました。
そっと吸ってみると粉のラムネが口の中に入ってきました。もっと吸ってみると、ラムネはヒュッと喉の奥の方まで吸い込まれて、わたしは涙を目にいっぱいためながら、げんげんと咳き込んでしまいました。
食べる時気をつけてって、お姉ちゃんに教えてあげなきゃな。わたしは涙を拭き拭き、そう胸に刻みました。
一足先に「ビンラムネ」を堪能したわたしが時計とにらめっこをしていると、母が「ちょっと〇〇に行ってこなくちゃいけなくなったから、早く支度をして」と言ってきました。
えー!お姉ちゃんがまだなのに?一緒に食べようと思ってたのに?
そんなわたしの主張や事情なんかはいつもさらっと無視されるので、わたしは何も言わずに出かける支度を始めました。
もうすぐ帰ってくるであろう姉には「すぐに帰るから、先に食べててね」と手紙を残して。
本当は二人で食べたかったのにな。ちぇ。
でも、あのお菓子を見た姉が浮かべるであろう笑みと、きっと美味しく食べているよねとその姿を想像すると、もうそれだけで、わたしは幸せでした。幸せだったのに…。
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家に帰ったわたしが、目にしたものは……。
うなだれている姉の後ろ姿。そして、姉の前に置かれたコップと、びちょびちょになって萎れている「ビンラムネ」の成れの果ての姿でした。
姉は、これは瓶の形をしているだし、ストローがついているのだから、きっと中に水を入れて「飲む」ものなんだろうと思ったのだそうです。
その頃、ちょうど、粉末ジュースなるものが流行ってもいたので、余計にそう思い込んでしまったらしいのですね。でも……。
ゆっくりとこちらを振り返った姉の、あの悲しそうな顔。
わたしは今でも忘れられません。
泣きたいのは姉の方だったでしょうに、その顔を見た瞬間、わたしはたまらずに泣き出してしまいました。
あんなにかわいいお菓子が目の前で崩れてしまった姉の気持ちを思うと悲しくて悲しくて。そして、食べ方を書き残しておかなかった自分の浅はかさに腹が立って。わたしはびえーびえーと泣き続けました。
その後のことは、よく覚えていないのですが。たぶん、わたし達は無事にリベンジを果たせたんだと思います。それが数日後だったか、数ヶ月後だったかはわかりませんが、二人で「ビンラムネ」を食べた記憶は微かに残っているので。
まさか、それが、トラウマを消そうとわたしが生み出した「偽りの記憶」でなければのお話なのですが……。
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今日のお弁当は……
卵焼き
白身魚のフライ
新生姜漬け
ブロッコリーの昆布茶和え
五穀米
ゆかり
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今日もお弁当を受け取ってくださってありがとございます。
次は何を詰めようかしら?
また、がんばって作ります。