ライ麦畑のつかまえ役ごっこ
今日は昔のことではなくて、今のことを書いてみたいと思います。
いつものお薬を処方してもらうために病院に行ってきたのですが、何でも、コロナが増えているそうで、待合室はぎゅうぎゅう詰めでした。
ベンチがいっぱいだったので、特に体調が悪いわけでもないわたしは、立って順番を待つことに。
渡された書類を立ったまま書くのはなかなかに骨の折れる作業でしたが、そろそろ書き終わるかなという頃。
よちよち歩きの赤ちゃんがこちらに歩いてきました。お母さんは少し離れたベンチに座っているようです。
こちらに向かって歩いてくる赤ちゃんの首は、完全に後ろを向いていて「よそ見歩き」の状態。
赤ちゃんの進行方向に立っているわたしはもちろん、ベンチに座っておられるみなさんも「危ない、危ないよー！このままだとぶつかっちゃうよぉ」という心の叫びが漏れてきそうなほどにハラハラしながら、赤ちゃんを見守っていました。
後ろを向いたまま器用によっちよっちと歩いている赤ちゃんに、お母さんが座ったまま「前見て。前」と声をかけ続けるので、赤ちゃんの視線はますますお母さんにロックオンされてしまい、もう衝突は免れない位置にまで近づいてしまいました。
いきなりこんな立派な足にぶつかったら、赤ちゃんがさぞやびっくりするだろうと心配になったので、一歩横にズレてあげようかしら？と思ったのですが、わたしの後ろは固く四角張った柱です。
これに激突したら、かわいいおでこにたんこぶができちゃうかも！いや、わたしからはぽやぽやの後頭部しか見えないんだけどね（笑）。
「ここは、わたしめがあなた様のクッションになってしんぜましょう」と覚悟を決めて待っていると、衝突の瞬間は程なくしてやってまいりました。
「ぽよん」と音がしそうなくらいにポヨンポヨンした赤ちゃんの感触に、思わず笑ってしまったわたしですが、まずは赤ちゃんの救出です。
こういうご時世ですから、うかつに手を出したり触れたりしたらお母さんが心配しちゃうよね？と思ったので、尻もちをついてしまった赤ちゃんに「大丈夫？」と声をかけると、ストロングボーイは泣きもせず「にへぇ」と笑みを向けてくれたので、一安心。
「だから前見てって言ったでしょ？」「すみません」と言いながらやってきたお母さんに赤ちゃんが無事に抱っこされた瞬間、ハラハラと事の次第を見守っていた待合室の面々は「ほっ」と胸をなでおろしたのでした。
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あの「ぽよん」の瞬間、わたしは思ったんです。あぁ、これで、夢が一つ叶ったなと。
中学生の時に読んだ「ライ麦畑でつかまえて」。
十代のわたしには正直ちっともいいと思えなかったあの本。それから、折に触れて何度か読み返してはみたけれど、それでも、やっぱり「いい」とは少し遠い場所にいて、なのに今でもずっと本棚にいる本。
でも、あの本の中で、一つだけとっても「いい」と思えた場面があったんです。わたしもそう思う！と、なぜか涙がこぼれた場面が。
それは……。
物語の終盤に、主人公ホールディングが妹フィビーに語る話。
僕はあぶない崖のふちに立っているんだ。僕のやる仕事はね、誰でも崖から落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ。
あの頃のわたしは、とにかくいっぱいいっぱいでした。
こんな言葉はいまだに好きになれないのだけれど、いわゆる「虐待サバイバー」なのも、その理由の一つなのかもしれません。
だから、ギリギリのところで耐えている自分をつかまえて欲しいと思ったのか、それとも、今、どこかでわたしと同じように崖のふちに立って震えている子に、手を差しのべたいと思ったのか。
あの頃のわたしがホールディングの言葉に涙したのは、どちらの意味だったのかはもうわからないけれど。
でも、少し大人になった時には、完全にこう思っていました。
「誰かを守りたい」と。
それからのわたしは、何かことが起きるたびに「盾になろう」と思うようになりました。
それがいいことなのか悪いことなのかもわからないままに。
もう、誰かが傷つくのをただ見ていることにはうんざりしていたのです。
だから、心の片隅には、ライ麦畑で両手を広げている彼が住みつくようになりました。
あれからずいぶん経ちますが、哀しいことにわたしはまだ誰かを守れるような人間にはなれていません。
だから、ライ麦畑のつかまえ役はわたしの「夢」でした。実際には叶わないんだろうなと諦めながら見ている「夢」。
だけど、赤ちゃんがわたしの足に「ぽよん」とぶつかった瞬間。ん？と思いました。そして、おやおや？とにんまりしたんです。
「つかまえちゃったね、ちょこっとだけホールディングだね」と。
こじつけだけど。それでも、そう思っていろんなことを笑っちゃった方が、笑い飛ばしちゃった方が、何となく救われるから。
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今日のお弁当は……
お肉ドーンのお弁当(笑)
鶏のスパイス焼き
ブロッコリーのカレー粉和え
味噌漬け生姜
しそ昆布
五穀米
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今日もお弁当を受け取ってくださってありがとございます。
次は何を詰めようかしら？
また、がんばって作ります。
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