デッサンは魔法ではない
デッサンをすると願いが叶うと思う人がたくさんいます。
絵が上手くなったり、悩みが解決したり、プロになれたり、そういう願いが叶うものと思われがちなのが、デッサンです。
また、漫画を出版社に持ち込んだら「デッサンやって来い」と言われたり、プロのイラストレーターになるにはどうすればいいですか?と聞いたら「ひたすらデッサンやれ」と言われたり。
そんな、全てを解決してしまう希望の星、デッサンです。
……んなわけない。
もう20年以上もデッサンスクールをやっています。プロ向けのスクールは、たぶん日本ではウチだけかな。講座やコースでは設置してあるところはあるけれど。
デッサンは、みんなと同じ画材で、みんなと同じ時間、同じモチーフを描くのがすっごくいいんですよね。
条件が同じだから、人と自分が比べられる。
比べるというのは、優劣じゃないです。
自分の弱点とか、ダサいとことか、漏れちゃってる個とか、全てが曝け出されます。しんどいね。
そして、人ができないのに自分ができることとか、自分がすぐできちゃったとことか、人から羨ましがられるとことか、そんなのも素っ裸になります。
カッコつけれないんですよ。だってシンプルすぎる画材で、シンプルに目の前のものを描くから。
レイヤー重ねたり、エフェクトかけたり、トレースしたり、隠れて何十時間もかけたのに涼しい顔して人に見せたりとか、そういうことができません。
そのダサい自分を、なんとかダサくないようにするのが、上手くなるってことかなあ。
10点満点で8点くらいの部分は誇れるところです。伸びます。特徴になります。得意げに、いい気になって描いて欲しいところです。
5点くらいの部分は、なんとかなります。少し上手い人のを見ながら自分でもなんとかできます。
3点くらいだと自力では無理です。できている人の描き方をよく見たり、話を聞いたり、講師に指導を受けて、なんとか対処方法を学びましょう。
0点のところはいくら掛けても0点です。そこは諦めて、対処方法を覚えてしまいます。
例えば、左右均一に描けない人がいたとします。……私だ。
ワイン瓶とか正面の顔とか、私にゃ描けません。多分1点くらいの能力です。
だから私は対処します。紙の上下をひっくり返したり、得意な側を描いたら、それを反対側に素直に写します。
努力しても無駄、対処を覚えた方が早いです。
私は描くスピードが速いです。これは10点満点いただきます。
なんで速いかというと、全体の把握が早い、こだわりが少ない、そして直すのが怖くない。
ここに掲載したデッサンは1時間ですが、生徒さんは2時間くらいかけてます。倍くらいは速いよ。
形を取るのは得意です。8点かな。
なんなら、下絵なしで手前から描き始めても大体合います。
だから、私は形の取り方が分かりません。元々できるから。だから、教える時は細心の注意を払って教えています。
そして、私は立体、迫力が弱いです。3点くらいかな。かなり厳しい。
上手い人のを見てやり方を覚える対処療法も取り入れ、なんとか自分で工夫してやっています。
だからここは教えられるぞ。
私のマンガやイラストが迫力に欠けるのは、私の能力としてそこが弱いからです。だから、迫力のあるアクションものは向いていません。
ということで、デッサンは魔法の言葉ではなく、自分のできるところ、できないところを、素っ裸にするものでした。
うちの学校に魔法を習いにきた人たちは、気がついたら素っ裸になっているわけです。
いいね。
その方がいいぞ。
そこから、どんな服を着るのか選べばいいですからね。
だからみんな、まずは、脱ごう。