発熱したら、思いの外メンタルやられた って話。
新型コロナウィルス。
なかなか厄介なやつで、年単位で日本に居座っている。
ソーシャルディスタンスが当たり前になり、緊急事態宣言が二度も発令された。
解除になったって、何も変わりゃしない。
マスク必須。うっかりノーマスクで外でた日には「もう生きて帰れないかもしれない」という強迫観念に駆られ、咳ひとつしよう物なら、周囲の人間が潮が引くようにサーーーーーっと離れていく。そして白い目に晒されるという、なんとも生きづらい日々が続いている。
自己紹介でも話した通り、私は看護師である。
そこまで大きくない病院の、病棟看護師として普段は勤務している。
勿論、感染対策は厳重に行っており、マスク・フェイスシールド・ビニール製の使い捨てエプロン・アルコール消毒液の4点を身につけないと患者の傍には行けない。
外食も禁止、休日の外出も市内から出てはいけない――と、かなりの厳重警戒をもって勤務している。
そんなある日
いきなり発熱した。
夜中に両下肢のわずかな痛みを感じていたものの、前の日に息子と
四股を踏んだせいだ
と思っていたので気にしなかった。
(別に息子が相撲部ってわけではない)
翌朝起きたら
過去そんなに経験した事のないだるさ+体熱感
に襲われていた。あと両下肢痛も。多分前日に四股を踏んだのは関係ないようだ。
頭の中で「やばいよやばいよ」と、出川哲朗の声でエンドレスリピートされ、そして覚悟を決めて枕元に置いてある体温計を右の脇に挟んだ。
――――――39.0℃
終わった………………真っ白にな…………
あしたのジョーよろしく、真っ白になってる場合ではなかった。
既に起きて1階のリビングにいた夫に「熱が出たから、今から私のところに来るの一切禁止ね」という電話をした。息子もそこで朝ごはんを食べていた。
「おい、大丈夫か?」
「ママーお熱なのー?」
2人揃って部屋入ってんじゃないよ!!!
夫にとっては文明の機器(スマホ)も、ただの板でしかなかったようだ。(解約しちまえ!)
熱だから。コロナかもしれないから。
あなた達は今は大丈夫かもしれないけど、もしかって事があるから…………… のような事を口走り、何とか部屋から追い出した後、次にやった事は
所属長へ連絡。
発熱したら直ぐに所属長へ連絡という院内ルールがあったのだ。
所属長へ電話をし、39.0℃の熱があるという事を告げると
「はァ?」
という返事があった後
「昨日、一昨日で誰かと濃厚接触した?旦那は?子供は?患者は誰を受け持った?昼ごはんは誰と一緒に食べた?外食したんじゃないの?子供連れて遠出したんでしょ?なにやってんのあんた!」
と言った。
情けない事に泣いて「すみません」と言う事しか出来なかった。
高熱のせいもあり頭が働かず、誰と昼食を取ったのか、受け持ち患者がだれだったのか、思い出せなかった。(後にきちんと報告済み)
あんなに手洗い、うがい、消毒を徹底していたのに。
外食も遠出もしていない。
息子には我慢してもらっていた事。
やましい事は何一つしていないはず。
熱が出ただけで、こんなにも責められたのは生まれて初めてだった。
(被害者意識強めなのは、当時弱っていたから…)
とりあえず診察しに来て、と所属長に言われ
勤務先へ。
CT、採血、インフルエンザチェック、コロナ抗原検査(PCRとは異なる。簡易的な検査で30分で結果が分かる)をした結果、コロナ抗原、インフルエンザは陰性だったものの、右肺にすりガラス陰影がうっすら見える、との事でPCR検査も受けた。
一通りの検査が終わり、再度所属長へ連絡を入れると
「抗原マイナスだったんだー。じゃ、あとはPCRの結果を震えて待つしかないね」
夫と息子もコロナ抗原検査を受けて陰性。症状ないけど一応気をつけて、という事で夫と息子は
夫の実家の離れを借りて過ごす事に。
私は自宅で寝てい…………… らんねぇよちくしょう!!
所属長の発言通り、私はPCRの結果が怖くて怖くて震えていた。
寝て、体力の回復と解熱を試みたかったが、所属長の電話口での発言が気になり、もしも私がコロナに感染していたらスタッフや家族に合わせる顔がない。申し訳無さ過ぎて辛い。患者に感染していたらどうしよう。クラスター発生して、ニュースで勤務先が出ちゃったら風評被害が…………どうしよう、どうしよう。こわい。
いよいよ感染していたら、最悪の場合は死ぬしかない。
などとネガティヴ思考が止まらなかった。
自宅で1人、というのも余計ネガティヴ思考に拍車をかけた。
結局、眠れなかった。そして熱は下がらなかった。
翌日、勤務先の内科医より直接連絡を貰い、PCRも陰性という事が判明。右肺上葉部肺炎という診断が下った。
採血では炎症反応もそこまで上昇しておらず、他の数値を見た感じだと、すでにピークアウトしているだろうとの事だった。
所属長の声を聞きたくなかったが、連絡した。
「良かったねぇ。首の皮一枚つながったね。とりあえずしばらく休みにするから、熱が下がったら連絡して~お大事にぃ~」
私は、また泣いた。
―――――――――――――
自己管理の甘さが招いた今回の発熱騒動。
所属長の言葉の端々にトゲがあったこと、自分の不甲斐なさ、家族や他人を巻き込んでしまうかもしれないという恐怖で、精神的にはかなりダメージが大きかった。
現在はすっかり元気で、普段通り勤務もできているが、この発熱騒動で所属長との関係が変化したのも事実である。
所属長とはだいぶ関係が良好で、育児の事、仕事面での事、なんでも相談できる人だった。
今回の件で所属長は復帰後に
「あの時いわのさん居なくて困ったんだー。復帰してくれて安心したよ!体大事にしなきゃだめよー」
と言ってくれた。
だけど私はもう以前の様には話せなかった。
話せなくなってしまった。
コロナ禍の中、感染者を出してはならないという管理者としてのプレッシャー等など、所属長の立場で考えたら、理解できる部分は沢山ある。ピリピリしてしまう気持ちだって、そりゃそうだろう、と。
だけどあの日私に言った
「なにやってんの、あんた!」
だけは、理解できないし、多分許せないんだろうなーと思う。
医療従事者の皆さん、先は長いですが、身体には充分気をつけて頑張りすぎずにやっていきましょうね。
おしまい。
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