ソウルのお爺さん、香港のおばさん
今年も、姉は私の娘を旅行に連れて行ってくれた。
誕生日プレゼントに、と。
姉の推し活を兼ねているとは言え、
私にはなかなかできないことだ。
恐ろしい物価高の中、
我が家は養育費も支払われていない母子家庭。
姉は娘と一緒に、機内で入国カードを書いて(香港はまだ手書き)、小遣いを両替して、街歩きをして、美味しいものを食べて、
英語がおぼつかない娘に、翻訳アプリを使って会話もしてみようよ、と背中をおしてくれる。
ほんの数日だけど、娘は日本の有り難みも感じて、それまでとは少しだけ違う感覚で日常に戻って来る。
行きの飛行機ではアメリカ人のおじさんと仲良くなったらしい。
姉とおじさんは話が弾んで、彼は
レストランを経営しているから、ミシガン(ミネソタだったかも)に来たら寄って!と連絡先をくれたそう。
“でもおばちゃん(私の姉)さ、アメリカ興味ないしなーって後から言ってた”と、
娘は笑って教えてくれた。
姉は風邪気味だった娘にと、香港のローカルなスーパーでオレンジを買ってくれたそう。
会計を済ませた後、レジのおばさんが
今のオレンジは傷んでいたから、代えておいで!と娘を呼び止めてくれたという。
大声だったからびっくり。
だけどどの人も大声だったそう。
たえちゃんと一緒だったからか、
そこかしこで親切を受けたなあ、と姉。
でも、その親密度は韓国ほどではない、とも。
前に行ったソウルでは、
エスカレーターでキャリーケースを挟んでしまった娘を、“イケメンのお兄さん”が助けてくれて、電車に乗るまで付き添ってくれたとか。
電車では70代と思しきご夫妻がなんと娘に席を譲ってくださり、降りる時には飴をくださったのだとか。
にこやかなお二方と、もじもじしている娘の写真がLINEで送られて来て、私は嬉しくなった。
別の日にも、同じくらいのお年の紳士が、
地下鉄で立っていた娘に席を詰めてくださって、
“ほら、座りなさい”と手招きしてくれたそう。
日本だと、きっと互いに躊躇してしまうような親切心。
私はただただ、姉がそんな経験を娘にさせてくれたことを、有り難く思う。
ものものしいニュース、悲しい分断が目に飛び込んで来る。
ニュースだけではなく、娘は家庭でも、分断を目の当たりにして来た。
でも、暖かい世界も知っている。