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87歳母の流儀と、沢木耕太郎

冷凍庫の整頓、皆さん、どうされていますか。
マイルールは、ありますか?

この人は、こんな冷蔵庫、
あの人は、あんな冷蔵庫かな、と
私は時々、下世話ながら想像する。
手作りの素敵なスイーツが冷えていたり、
皆の健康を考えた、自家製のお出汁があったり。
嗜好品、調味料も、とても気になるところだ。
人の本棚を見せて貰うのに近いかもしれない。

母は、冷凍庫に食料品を平積みにする。
私は、縦置きにしたい。
いや、縦置きでなくてはと強固に決めている。

実家に引っ越して来て、自分の部屋の荷解きもせず、まずは冷蔵庫整理に取り掛かった。
頼まれては、いない。
とは言え私が持ち込んだ物も大量にあったので、キッチンは使い勝手がこの上なく悪い。
これはしなくてはならぬ、私は立ち上がる。

守備は上々。
大量の賞味期限切れ食品を処分、
(予想よりは少なかった)
瓶や缶を洗って干し、
庫内を消毒、
平積みになっていた冷凍食品、乾物をカテゴライズして縦置きに。
何度開けて見ても気持ちが良い。
母は、自分で片付けた場所は気持ちいいでしょう、と言った。

それから三週間ほど。
受診で休みを取った今朝、
キッチンに降りて行くと、ホットクックで温泉卵を作っていた母は、では後は適宜にお任せ、とソファに座った。
洗い物を干す棚には、私が昨夜洗った私と娘の水筒、スープジャーが並び、なんとも視界がカラフル。
母達にとっては侵略されたような気持ちかもしれない。
おそらくそうだろう。

のんびり冷凍庫を開けて気づく。
じわりじわりと冷凍庫の平積みが復活。
魚、肉、野菜、既製品、分けてあったスペースも曖昧になっている。
私は即座にそれらを縦置きに戻す。
母は出版社に勤めていた。
本のように、物も平積みにしたいとか!?
部屋の段ボールから、ブックエンドを出して来ようかな。
縦置きをする為に。
縦置きは、掟だ。

ああ、でも、控えめに、控えめに。
だって、私と元夫の離婚だって、彼のルールの押し付けから始まったのだから。
ジップロックに入ったパセリ、棒アイスやら冷凍のパイやらで、ぐしゃっとした一角(私にはそう見える)は、手を付けずに置いておいた。

母は、何も言わない。
私もまた、何も言わない。

母の好きな“沢木さん”。



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