杉山太郎歌集『花鋏の音』を読んで
杉山太郎さんの歌集『花鋏の音』は、2022年5月に青磁社から出版された。発行から何度も読み返して、感想を何度も書き直して、今日ようやく以下の文章として自分なりに納得できるかたちとなった。本書は塔21世紀叢書第408篇にあたる。笹の絵をはじめとした和風なデザインに、質感のよい表紙という美しい装丁である。
ページを捲ると、歌が始まるよりも前に「序文」として栗木京子さんの解説を読むことができる。先に解説文が来るというのは歌集のなかでは比較的珍しい形式のような気がするが、作品を読んでいく前に、これからはじまる世界観の大枠を丁寧な解説文によって知ることができるという嬉しさがある。
上の句で書かれている「祖母」の木材への詳しさは、人並みではなさそうだ。書籍や図鑑などから得た知識というよりも、仕事や生活を通して、実際に木や木材を見て覚えていったような印象を受ける。
見渡せば道路のそばや公園、家の庭など、世界中の様々な場所に木が生えている。木材によって家や家具が作られたりお風呂を沸かしたりすることができる。主体が祖母のことを「あれこれ思い出す」ような場面は、これからの未来にもたくさんあるだろう。
主体の様子がありありと見えてくるような場面の描かれ方である。箱から野菜を取り出せば、段ボールと野菜には関連がなくなるはずなのに、畳む段階でもう一度それらの関連を見せてくる時間差があることの面白さだ。
音数に注目して下の句を見ると、リズミカルな破調で心地よいはみ出し方をしている。野菜屑がつぎつぎに箱からこぼれていく様子にぴったりで、繰り返して音読したい一首だと思った。
衝撃的なことをさらりと語る、どこか冷静な視点に驚いた。「犬達が互いに」というはじまり方には、犬達が友好的な関係を築いていて、人間側からもそう見えていたような想像ができる。同じようなタイミングで虹の橋を渡ったのは、同年齢くらいだったのかもしれないし、あるいはどちらかの犬が追いかけていったのかもしれない。主体に育てられた犬も、坂道の家で育った犬も、家族として愛情深く育てられたゆえに、お互いに今は気安く話に出せないのだろうと思う。
床屋の常連客としての主体は、「いつもの」と伝えれば希望のヘアスタイルになるらしい。さらに美容師さんも「いつも」通りの場所からカットし始めれば、主体は鏡越しに毎回すべて同じ流れを見ることとなる。きっと二人は、毎回変わり種の会話を頑張って繰り広げるような感じの気張った関係性ではなく、お互いに必要なことだけ聞いてそれに答えるような安心感のある関係性なのだろう。
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上記のように、主体に注目して読んでみるのもおすすめの一冊である。
青磁社ホームページ 杉山太郎『花鋏の音』歌集
ISBN 9784861985362
歌集『展開』豊冨瑞歩 発売中 234首収録 https://c2at2.booth.pm/items/3905111