unreal container 展示概要
慶應義塾大学藤井進也研究会x Music Lab に所属している学部3年の松井美緒です。Synthesize: x-Music Exhibitionにて展示した作品の詳細と制作記録を書きました。English version is here.
↓展覧会の詳細
「怖い」という感情は何なのだろうか。怖いという感情は、何かわからない、知らないものに対して抱く。また、文化による違いも見られる。
特に、「畏怖」という種類の怖さは独特で、日本ではそれが日常に強くあるように思う。
「畏怖」は「いふ」と読み、「すごいと思い恐れおののく様子、その様な気持ち」という意味だ。単なる「怖い」ではなく、神や自然など、人を超越する程のパワーを持っているものに対して、敬意を払いながらもおそれる気持ちを表す言葉である。
この「畏れ」という概念は、ただ怖いものに対してでなく、長年自然、天災に翻弄されながら生きてきた先祖代々が育んできたものでもあるだろう。
ところで、日本の古来からの恐怖対象である、「鬼」も、「こわい」感情の源を探るのに重要だ。
「おに」の語は「おぬ(隠)」が転じたもので、元来は姿の見えないもの、この世ならざるものであることを意味する、との一説が古くからある。
「人神 周易云人神曰鬼〈居偉反和名於邇、或説云於邇者隠音之訛也。鬼物隠而不欲顕形故以称也〉」『和名抄』など
この説によると、目で見ることができない、不穏なもののことを指して鬼と言っていたのだ。
昔から、「目に見えないもの」を大切にしていたし、同時に「畏怖」していた。
お寺や神社が数多く建立されてきたのも、疫病や天災といった、原因のわからないものや見えない恐怖への対策であり、そしてただおそれるのではなく、敬いおそれる、つまり「畏怖」の気持ちがあったからだとも考えられる。さらに遡れば、埴輪や土偶もそう考えられる。私自身、初めて埴輪を直接見た時、今ほど言語化できなかったものの、畏怖の感情を抱いていた。
このようなことから、私が追求し表現したいのは、目に見えない、得体の知れない、この世ならざるなにかであり、日本の文化に根付く恐怖の感覚としての「畏れ」なのである。
研究概要
人間の可聴域を超えた低音を鳴らすことのできる直径80cmの大型ウーハーを使って、音だけで「何かがいる」ような気配や、不安や怖さ、得体の知れない感覚を感じる体験を与える作品の制作
テーマ「畏怖」
この作品では、古来から日本の文化に強く根付いている「畏怖」を表現することをテーマにしている。
きっかけは、私が初めて東京国立博物館に行った時。ずらっと並ぶたくさんの埴輪が、可愛いような、怖いような、人なのかなんなのかわからないような異様な姿形をしていて、ひとことでは表せないような感情を抱いた。この時の感覚を音で表現しようと制作を始めた。
制作していく中で、埴輪自体を表現したいのではなく、その時感じた異様な「気配」のようなものを表現したいのだと気づいた。
そこから、ウーハーの低音で、「怖い」「得体の知れない何かの気配がする」といった体験を作る現在に至る。
ウーハー制作の詳細はこちらに移しました。