キタニタツヤのオールナイトニッポンX(第24回)2024.9.16③

・ほかにもいくつか実験ログが残っているが、その報告書の一番最後に、「カリスト・ナルバエス博士の声明:2010/11/29」というファイルが添付されていて、そのファイルを開くと、「もし君がこれを読んでいるのなら、君の治療は既に始まっている。」という文章から始まるメモ書きがあり、「SCP-2737のヤツメウナギを患者に曝露させるという治療は、PTSDや鬱病・不安障害の軽減に対して、心理療法・薬物療法を凌ぐ効果を上げている」という旨の報告がある。

・で、そのメモの締めの言葉がめちゃくちゃぼくは好きで、
「君自身と向き合って考えるか、或いはそれを口に出してみればいい。ー 2000年前に死んだ一匹のヤツメウナギが、驚くほど親身に君の話を聞いてくれるはずだ。
今日、君は泣くだろう。嘆くだろう。これまでに喪った全てを思い出すだろう。
そして、それを通して、君は癒されていくのだよ。」
で、完全に報告書は終わる。

・だから、SCP-2737って、最初に言ってた説明書きだと、鬱の症状を出させたり、恐れをなさせる、強迫観念が出てくるという内容だったが、実験ログをだんだん読んでいくと、人間の心に単にダメージを与えるものかと思いきや、実は人がそれぞれ固有に持っている"死"という観念に付随する不安・後悔・恐怖等にちゃんと向き合わせる、その向き合うことを手伝ってくれるというのが、このウナギの本当の効果。
心の奥底で抱えてるものを吐き出させる。ヤツメウナギの死体相手に話すことで癒しが与えられるセラピーになっている、というオブジェクト。

・その記事の何がすごいかというと、その架空のSCP財団の世界では、財団職員とかがヤツメウナギに触れると治療の効果があると、これ自体架空のものだが、この記事そのものも同様の効果を持っているとぼくは思っていて、メモ書き(先述)にもあるように、この記事を読むことによってでも、ウナギを見たのと全く同じ効果で死について考える機会が与えられる。向き合うことが必要なんだなとちょっとだけ思うようになる。

・だから、メメント・モリやカルペ・ディエムが突き付けられるというか、与えられた時間が我々には実は少ない。23歳の人とかがそれを見ると、「もう死まで時間がない」と言い出す。
当たり前だけど、普段意識しないこともめちゃくちゃ意識するようになる。このテキストを現実世界の我々が見ても、実際に意識させられる。ウナギと全く同じ効果を、誰かが作ったただのWEBサイトの文章が持ってる。

・これにめっちゃ影響受けてて、この効果を同じように持った音楽を作れないかなと思って『タナトフォビア』ができた。
死にまつわる残酷な事実を突き付けながら、でもそれを聴いた人が向き合うときに寄り添って話を聞いてくれるような音楽ができたらいいなと思ってて、これは簡単じゃないテーマだから、音楽家人生を通してじっくり何曲もやりたいと思っている。

・これぜひ元記事を読んでほしい。これを読むことによって、今言ったような効果がきっと表れるはずなので。

・最近小学生相手に流行ってるらしい。昔だったらお化けとかの図鑑みたいな感じで、SCP図鑑みたいなのがあるらしくて、本として出版されている。
SCPのテキストは文字だけだから、読んでいるときに想像力を膨らまさざるを得ないが、小学生向けの本だとイラストが描いてあって、何が起きてるのか想像しやすくなってたりするっていうのがあって、とにかく面白いのでSCPの世界に引き込んでいきたい。

・この間「行方不明展」という、ちょっとホラーみたいな展示会があり、それのトークショーに出させていただいたが、そのときに梨さんという作家さんとお話した。
その作家さんも元々このSCPの世界で、すごい和風ホラーを書いていた人。ぼく、その人っていう認識で梨さんのこと知ってて、今はもう新進気鋭のホラー作家みたいになっているが、そういう人もいたりして、今回の一見怖いけど実はいい話かも、みたいなウナギの話もあるし、もっとくだらない面白おかしいものもあったり、普通にホラーとして成立しているものもあったりするんで、ぜひ皆さんSCPの世界に足を踏み入れていただきたい。SCP-2737「死んだヤツメウナギ」、読んでください。(〜『タナトフォビア』流れる)

・(メール、敬老席ももうSCPに登録されてたりしない?)  あー!書けばいいんだよ。誰でも書けるけど、夏厨が書いた「僕の考えた最強のバケモノ」みたいなのは投票で蹴られるけど、面白かったら採用される。
SCP「敬老席」。老人が定期的に転送されてきて、いなくなるとまた自動的に補充される。それが誰なのか皆わからない、みたいな。読みたいな〜敬老席のSCP。
目の前に子どもたちがいなくなったら、何か起こるとかね。笑

・SCPだったら、「10歳以下の児童を常に数名置いておいてください。」みたいなのが収容プロトコルとして書いてある。うわーめっちゃいいかも!
「この競技を行っていたら、このSCPにとっては運動会として認識される」ってラインがあって、実験するうちにそれを見つけるっていうのも実験ログに書いてあって、結果、最終的に収容プロトコルとして、「この老人の前で2名の男児が常に追いかけっこをしていれば、もう運動会として認識してされる。それが行われていないとヤバいことが起こる。」みたいな。めっちゃいいじゃん!敬老席のSCP、書いてくれ。

・(ションハテ、「大谷翔平と同じ12時間睡眠実践してるのに、何一つ上手くいかない。」)  大谷翔平そんな寝てるの!?おれも過眠系男子だから、12時間平気で寝ちゃうときもあるんだけど、大谷翔平が12時間寝てるっていうエピソードがあるだけで、こんなにも心って救われるんだね。(でも)嘘かもしんないから。大谷さんがおれたちを喜ばせようとしてるだけかもしれないから。

・お知らせ、TVアニメ『るろうに剣心 ー明治剣客浪漫譚ー 京都動乱』のOP曲ににキタニタツヤ×なとりの『いらないもの』が決定。なとりさんと初コラボ、二人で作詞・作曲・編曲して一緒に歌ってるので、楽しみにしていてください。

・(メールを経て)敬老席の話、ちゃんと知りたいな。今もシステムとしてあるんですかね?そもそも何でテント?あそこだけ家族ゾーンと切り離されて、、隔離?あ、日差しが純粋に危ないからか。そっか。笑(終)

─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─

・とても興味深い回だった。あまりインターネットの人間ではないので、SCPというものを初めて知った。取り急ぎここに出てきたものは全部読んだけれど、やっぱりSCP-2737が印象的。

・「死恐怖症」という言葉が出てきた時点で『タナトフォビア』を思い浮かべていたものの、本当にここから着想を得たものだったなんて。『BLEACH』×ニーチェの「運命愛」というイメージが強くて、曲調も歌詞もほかの曲とは一線を画す世界観だなとは思っていたけれど。

・地獄の淵のすぐ隣に立っていて、ともすると堕ちてしまいそうな、確かに「死」がそこにあると否応なく突き付けられているのに、「琥珀に住まう羽虫も〜」から転換して希望に向かっていくから、聴き終えた後には死と隣り合わせの生を、だからこそ丸ごと愛したくなるような曲、みたいな浅い感想を抱いていたけれど、ヤツメウナギのお話を聞いて鳥肌が立ってしまった。
これを踏まえて聴くと一層深くて、アーティスト・キタニタツヤの真髄を見た気がした。

・歌詞に好きなフレーズも多い。「エンドロールが終わっても業は消えない 徒に過ごした日々は帰らない」「日常の続きの永遠の蛇足」「今日という日の花を摘んで束ねたブーケ」とか。ちょっと良すぎる。
「エンドロール〜」のリズムも、「ただ青い空があった」での吸い込まれるような終わり方も、木谷・カルペディエム・竜也も好き。

・そして、「ヤツメウナギ」のワード、何か聞いたことあるな、、?と記憶を辿ったら、村上春樹さん『女のいない男たち』収録の「シェエラザード」に出てきたのだった。
ある「ハウス」に住む男の元に、中年に足を踏み入れかけた主婦の女が訪れ、週2度ほどセックスをし、その後彼女が物語を語るのだが、あるとき「私の前世はやつめうなぎだったの」と突如告げる、という場面があった。

・その怖い見た目もさることながら、他の魚に"寄生"する生態が特徴的で、SCPにおいても上記小説においても、そこに大きな意味を見出して使われているのだろうなと思う。
この本は随分前に読んでおり、中でも「ドライブ・マイ・カー」がとても良いなと思っていたら、後に映画化された。映画には、『女のいない男たち』収録のほかの短編のエピソードも少しずつ織り込まれており、本を読んでから映画を観ると、「これはあのエピソードだ」とわかって楽しめる。本自体がまず、テーマも含め魅力的だった。

・少し話が逸れたけれど、キタニさんのお陰で知見が広がるのも楽しく、感謝している。キタニさんに出会わなければ知らなかったものや感情がたくさんある。
SCPはかなりの分量があるので、少しずつ読んで、自分のお気に入りを見つけたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?