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星の取引

 今夜Kobe、M埠頭のS倉庫の前で、星取引をしようという話が出たらしい。私はそれを昼間買いに行った市場の中の豆腐屋の親爺から聞いたのだが、疑わしいので笑って済まそうとすると、商工会議所が絡んでいるから本当だ、などと言って妙に引き下がらない。
 まあ、ここKobeにおいては、そんな事があってもおかしくはない土地柄ではある。

 星は常に作られてはいるものの、それほど需要が無いため、供給過剰となっている。
 需要が無いのは、星に使い途がないからである。ある戦前の作家のように星をコクテールに入れたり、粉末にしてソーダ水に混ぜこんだりといった酔狂なことをする人間は、現代においてはもはや居ないのだ。
 
 S商事の担当者も、
「星ねえ…お祭り夜店の露店でガラス瓶にでも入れて、ピカピカさせて子供に売りつけるくらいしか思いつきませんナ」
 星を商材にするのは、㈲流れ星通信社。
 過剰気味な星は、デモンストレーション用に時折流れ星として夜空に流してはいるものの、願い事をするくらいしか使い途も無い。
「も少し派手にできればねェ」
「流星群みたいなヤツですかね」
 アレも悪くはないが…
「もっとこう、花火みたいにはじけたり、色を帯びたりして、空に広告とか打てればねェ。
スポンサーがつくかもしれん」
 うーむ・・・星というのは勝手気儘なモノなので、一直線に並べたり、順番に光らせたりするのは至難の技である。そんな事が果たしてできることか。
「それよりも、加工してサプリとか食用に回すのが現実的なんですがねぇ…」
「効用は?」
「気分がスッとするミントのような風味と、身体が一時的に光る現象、それから、髪の毛がスパークして毛先がチカチカ線香花火みたいになるとか」
「Instagramとかで映えるかもしれないね。ショーの演出とかにも使えそうか。身体に害は無いのだろうね?」
「24時間以内に排出されるので効果も一時的なもので、中毒性もありません。ただ…」
 ただ?
「まれに星アレルギーを起こす人もいるようでして…くしゃみが止まらなくなると、そのくしゃみが星のスパークに変わって、まあド派手な爆発みたいな現象になるので、ちょっとした騒ぎになることが」
「そんなにすごいのかね!」
「一度だけ見たことがあるが…その人間の身体中がピカピカした上に、クシャミするたんびに閃光が走って、まぁ派手なんてもんじゃなかったねェ」

「… そりゃサーカスか何かの芸みたいじゃないかね。そんなモノを売り出すのは、やはり少々面倒がおきそうだね。この話は無かったことにしてくれたまえよ」

 ㈲流れ星通信社は、今日も商談に失敗してしまいました。さて、商談が成立しなかったからとて、この二人はその場で別れたわけではありません。
 M埠頭からダルマ船に乗ってメリケン波止場まで行き、そこから元町へくり出して、お疲れ様の乾杯をしたそうです。
 その酒中に星の粉が混じっていたかどうかまでは、話には聞こえてこなかったのでした。

グッドナイト!








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