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N時代~水脈、のようなもの

 朝、通りかかった家の前の道で、水道の蓋の隙間から水がふとふと溢れて道路に筋を引いていた。漏水だ。

 地中の水道管が何かの理由で破れたかどうかして、中の水道水が金属蓋の小溝から溢れ出しているのだ。
 まるで突然、普通の道路上に出現した泉のように。水はふつふつと湧き出している。
 それは人工的でありながら、自然に湧いているようにも見える。地下の水脈からたった今、地上へと押し上げられた水の塊のよう。

 帰りに同じ道を通ったら、水道工事の人たちが地面を掘って工事に取りかかっていた。
 水に濡れた大量の土がそばにある荷台に積み上げられ、大きな穴に人夫が入り、水道管を直している。
 あたりまえだけれど、道路のアスファルトの下は土なのだな、と思った。普段は見えない土は茶色でふかふかして水道水に濡れてしっとりとしていた。
 水道管の破れを直したらまたあの土をかぶせて、アスファルトで表面を密閉して、水道管の上には小さい蓋が被せられるだろう。
 そうしたらもう、そこには水っ気は微塵も感じられず、ただの道路の一部にもどるだろう。

 秘密の泉は封印された。ふたたび。



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