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力を得るもの

 しろい、しろいしろい細かな粒の中を、体ごと進んでいる感覚。
 落ちているのか、飛んでいるのか。
 ふと、目を開けてみたら粒が目に入りそうになって慌ててまたぎゅっと目を瞑った。
 ずっと夢を見ていたような気がするのだけれど、なんだかそれも曖昧で、どうでもよくて、とにかく自分は今、何処かへ行こうとしているようだ。
 そうしてそれは自分の意志ではなくて、何か大きな抗えない力に押されているのか、引っ張られているのか、解らないままにとにかくは何処かへ向かっていた。

 瞑った瞼の裏にしろい粒の残像がよみがえった。ゆっくり、ひらひらと、右に左に落ちていく、あれは紙吹雪。紙吹雪の記憶だ。
 どうして間に合わなかった?そんな悔恨が紙吹雪に呼び覚まされて、そうして舞い散る紙の一つ一つに名前が書いてあることに気づく。
 見てもわからない言葉で書かれた暗号のような文字の羅列と、記憶のどこかをかすかに触る文字とが、一緒くたに乱舞して加速していくように思えたのは頭の中のできごと。
 あっという間にかきまわされて、またどんどんと動いていく。文字を見てから何か不思議な感情が起きていることに気づく。
 それは、嬉しいような、寂しいような、悲しいような、切ないような、やるせなく、やり場のない感情だった。そうして、久しぶりに味わっている気がした。長く忘れていたのかもしれない。

 ああ、またこれを味わうのだな。

 ふいに、思い出したように、そのことが身にせまってきて、自分はその感情のパッケージされた部分を眺めてみた。

 あの時はこんなふうで。
 この時はあんなだった。
 誰もが笑いながら、時には泣きながら、
 同じように感情を味わっていた。
 ように、見えた。

 けれど。本当のところは、よくわからなかったのだということを確認した。
 これから何度目かに向かうところは、誰もが自分のことしかわからないのに、周りもみんな自分と同じ感情を持っているはずだと勘違いしながら、時間の中をたゆたうところ。
 それは、夢というものだったり、幻想、理想、時には現実、と呼ばれる現象。
 リバイバルされた映画を観に行くように、気楽にのぞくくらいがいい。決して気を入れすぎて、苦しんだり嘆いたりしないことだ。
 何度もそれで、失敗したこともあっただろうから。

 最初に体に受ける力を刻印して、その場所に自分のカタチを押し込めたなら。
 もう後戻りはできない。
 うんざりするほどのもどかしさも、ままならぬ想いも、寒いのも暑いのも喉が乾くのもお腹が空くのも眠いのも。疲れるのも。面倒臭いのも。とにかくなんなりと、身に引き受けるしか仕様がない。

 もうすぐ無数の手が自分を向こう側へと引っ張り込む。力が働いている、大きな力が。それに逆らうのか従うのか諦めるか飲み込まれるか。別の力で対抗するのか。
 光が差す一瞬で決めるのだ。
 紙吹雪はもうまばらになり、最終のまとめに入ったことを告げる。

(1200文字)

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