③新居はゴ◯◯リ地獄|絶望的に準備不足な家族、シンガポールに移住する
シンガポールの美しい画像に癒されてください。
開戦
シンガポールの2月は暑い。特にすることもないので、プールに入ることにした。一同、水着に着替えて準備万端。リビングのガラス戸を開けるだけで30Mプールにダイブできるのは、何とも贅沢だ。
「ちょっと先に行ってて、トイレ済ませたいから」
夫を室内に残して、私は子どもたちと水浴びを楽しんでいた。しかし、待つこと10分。夫はなかなかやってこない。
不審に思って部屋に戻ると、むせかえるようなフローラルの香りが充満していた。
「大丈夫?!」
子どもたちは「くさい、くさい!」と叫んで、飛び退いた。
トイレから現れた夫の手には、昨日買ったばかりの殺虫剤。
「トイレのタンクの後ろから、これまで見たことないサイズのヤツが、次々と出てきてね...」
夫の話をまとめると、こうだ。まず2匹がノソノソ出てきた。殺虫剤を噴射して、それらを仕留めたと思ったら、さらに3匹。まるでクローン軍団のように次々と現れる黒い影に、新品の缶が空っぽになるまで噴射し続けたという。
「・・・もしかして」
今朝、寝室の出窓に見慣れない豆が2つ転がっていた。小豆そっくりの色だけど、かなり大きめ。「何だろう?」と、私は深く考えず、つまんでゴミ箱に捨てたのだった。
ポタポタと水を滴らせながら、「(害虫の名前)卵」で検索した。おそるおそる薄目で見ると、ビンゴである。しかも発見場所は、寝室の出窓だ。そんな無防備な場所に2つも転がっていたということは?
そう、目につかない場所には、もっとたくさんあるはずだ。
その日から、私はエッグハンターとなった。ヤツは孵化するまでに30日ほどかかるという。この家が半年も空室だったことを思い出し、背筋が凍る。今この瞬間も、どこかで小さな命が誕生しようとしているに違いない。
赤子も殺せ。ジェノサイド作戦
結局、90平米の部屋から、アクティブな卵は50個発見された。孵化済みの抜け殻を入れれば、その数はさらに増えた。
幼児2人の相手をしながら卵を駆除するのは、気が滅入った。あまりに苦痛なので、「4個処理するごとに何か美味しいものを食べよう」と、ご褒美ポイント制度を導入。仕事から帰った夫に「今日は13ポイント稼いだよ...」と報告した日もあった。夫は黙って私の肩を抱いた。
20個目くらいから、だんだんとヤツの習性が分かってきた。「私が(害虫)なら、どこに卵を産むだろう?」という禅問答のような日々。見当をつけた所から実際に見つかった時は、喜びと恐怖で心臓がキュッとした。
耐へがたきを耐へ、忍びがたきを忍び
入居3週間が過ぎ、問題は解決したかに思えた日曜日の朝。
爽やかな朝日を取り込もうと、寝室のカーテンを開けた瞬間、特大サイズの「住人」が現れた。ショックで後ろに転倒し、太ももには世界地図のような大きな青あざができた。これが決定打となり、害虫駆除業者を呼ぶことを決意した。
子どもがいる家庭では、プロの業者を入れても対策は限られる。基本的にゴキブリホイホイ的なトラップと、冷蔵庫の裏など手の届かない場所への毒餌設置がメイン。それでも、2ヶ月で「同居人」を殲滅することができた。(月初に訪問し、もしヤツが現れたら月1回までは追加で呼べるので安心だった。駆除業者としては非常に高額だが、これは穏やかに過ごすための保険料だ。)
ちなみにイカリさんによると、シンガポールの(害虫)は「インドア派」と「アウトドア派」の二種類いるらしい。
インドア派:下水道から這い上がってくる黒光りの大型。有害。わが家の「先住人」はこれ。
アウトドア派:茶色い小型の野生派。無害(そんなわけあるか)。その辺にいっぱい暮らしている。すぐ見慣れる。
結果として、熱帯地域の1階暮らしながら、思ったより早く解決することができた。激しく悔やまれるのは、入居前に家主負担でペストコントロールをお願いすればよかった!!ということ。次に引っ越すときの、痛い教訓となった。
<次回に続く>