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さみしくないお別れ

天寿を全うする。
与えられた時間を生き切る。

そんな最期に寄り添う日々を、経験させていただきました。

出会ってからは、わずか2年余りという他人。
そこまで生きてこられた90年近くの時間を、わたしは知らない。

全く違う場所に生まれ、違う時代を生き、
そして偶然、この今という時間を共有している人。

あまり大きく笑うこともなく
言葉数も少なければ、
自分から主張することなんてほとんどない。
そんな謙虚な人です。

それなのに、
人を惹きつける不思議な魅力と
いつでもそっと見守り、そのまんまを受け入れてくれる
ひろいひろい暖かさを
持ち合わせた方でした。

いつも周りを優先し、
若者のやり方を否定せず身を委ねてくれた彼女が、
自分の過去や好きだったこと、
食べたいものなんかを、
ぽつりぽつりと教えてくれることが
わたしは嬉しくてたまらないのでした。

「分からんなりにやったらええわ」 

「あんたが決め」

「あがん大きな大根こしらえるんは、むずかしいわなぁ」

「こちこそほんとにありがと」

いろいろな場面の
しぼり出すような大きなしゃがれ声が、
今もはっきりと聞こえてくるようです。

その声から流れてくる田舎なまりの言葉には、
飾らない素直なまんまの彼女がいて、
できないことはできないままに、
喜びはそのまま、失敗は失敗のままに、
目の前にいる人の、今その瞬間をともに認めてくれるように感じました。

急ぎ足になりがちで
さらにもっとと焦ってしまうわたしに、
ゆっくりゆっくり。
それでええよ。って
ふと、深呼吸の時間を与えてくれました。

そんな彼女とのたくさんの思い出を振り返りながら、
一緒にやりたいことを、全部全部やり切った最後の時間。
喫茶店で一気飲みしたミックスジュース。
スーパーで自分で選んでくれた黒あめ。
入りたかった浴槽。
リハビリで歌い続けた「上を向いて歩こう」。

本当はしんどかったかもしれないし、
一方通行の想いに、人を巻き込みすぎ?って
不安になったりもしたけど。

突っ走っていいよって言ってくれた人、
全力で一緒に走ってくれた人、
何よりもそれに付き合ってくれた彼女のおかげで、
こんなにも満たされた気持ちで
お見送りすることができました。

生と死の循環の中に、
ごく自然に存在しているという
当たり前のかたち。
でも、それを、こんなにも違和感なく、
心の底から体感させてもらった幸せに、
本当に感謝しています。
まったくの他人と
こんなにも暖かい縁を結ばせてもらえたことにも。

書ききれませんが、
たくさんの人へ
本当にありがとうございました。

大好きな人の、ご冥福をお祈りします。

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