SS「繭」
「繭」は絶対の安全と安心を保証してくれる。人は「繭」に籠ればどんな災いからも逃れられると信じてきた。大地が震えようが、大波が来ようが、巨大な炎が巻き起ころうが、疫病が猖獗を極めようが、「繭」が毀れることはない。その代わり、「繭」は人に幸福な夢を見せる。地上がどんな災厄に蹂躙されていようとも、「繭」の中に閉じこもっている限り、人はその中で安心して眠っていられる。そして、今までずっとそうであったからには、これからも永久にそうあり続けるものだと思われていた。
あるとき「影」がやってきて、世界に闇をもたらした。人びとは慄き、「繭」に逃れた。人びとは、いつものように「繭」が与える安寧の中で災いをやりすごそうとしたのだ。しかし、「影」は「繭」を覆い、浸潤し、冒し尽くした。それからというもの、人びとは暗闇の中で絶望に打ちひしがれ、逃れようのない不安に苛まれることになった。
おわり