Lycian Way #1 ~重い腰が上がらない~
トレイルの玄関口へ
2023年9月11日22時に羽田空港を飛び立ってから、チャンギ空港(シンガポール)→イスタンブール空港→ダラマン空港と計2回の乗り継ぎを経てダラマンという街に着いた。
ダラマンからは空港前のバスターミナルでFetehiy行のバスを見つけ、それに乗車すれば簡単に目的地フェティエ(Fetehiy)に行くことができる。
今にも発車しそうなFetehiy行のバスを見つけので、駆け足で乗り込むと車内は既に満席に近かった。
空いている席を見つけ、バス後方の5人掛けの席の一つに腰をかけた。
通路を挟んで隣の席には若いカップルが座っていた。
そのカップルは終始二人の愛を確かめ合っていた。
それはもうすごい勢いで。
対する僕は持参したギターが前の座先に飛び出さないように、同じくらいの熱量で必死に抱きかかえ、Fetehiyに着くのを待った。
まずは一泊。
1時間ほどバスに揺られLycian Wayの玄関口フェティエ( Fetehiy)に着いた。
日本を出国してから3日目のことだ。
まずは、予約したホステル「El Camino Hostel」へ向かった。
バスターミナルからホステルに向かう道中、沢山の店を通り過ぎた。
翌日にはLycian Wayを歩き始める予定のため、食料や燃料が買えそうなお店を物色しながら歩いた。
30分ほど歩きホステルに到着。
とてもお洒落な外観だ。
夜はパブになるらしい。
また、港を一望できるオーシャンビュー。
そして朝食付きで1500円。
最高。
チェックインを済ませ、渡された鍵に書かれた番号の部屋へ。
すぐに荷をほどき、買い出しの準備をして街へ向かった。
とりあえず街をフラフラ練り歩いた。
どのお店の前にも、座りどころが悪ければ足が折れてしまいそうな椅子に腰を掛け、チャイを啜りながらタバコの煙に包まれている店員の姿があった。
フェティエでは、灰皿付のゴミ箱が10メートル間隔に置かれていた。
都内在住の喫煙者には天国のような場所だろう。
日本人の僕からしたら、そんなお気楽に見える生活が羨ましく映った。
凄く居心地の良い街で、体が自然と馴染んでいく感覚があった。
海と山に囲まれた街でもあり、別府に居たときの記憶が蘇った。
一通り探索を終え、ホステルに戻った。
まずは日本出国以来のシャワーを浴びた。
シャンプーだかボディーソープだか何か分からない液体で全身と衣類を洗った。
僕の部屋には誰もいなかったので、ロープを張って洗濯物を干す。
その後はホステルのパブでビールとハンバーガーを食らい、部屋に戻った。半裸で荷物の整理をしていると一人の女性が入ってきた。
もう誰も来ないと思っていた僕はびっくり。
すっかり油断していた。
部屋に入ってきたのは韓国人の女性だった。
挨拶を済ませ、僕は一人眠りに着いた。
紡ぐJapanese Soul
翌朝、5時に目を覚ました。
前日20時には眠りに落ちていたからだろう。
隣のベッドには韓国人の女性と、その上の段にはもう一人男性が横になっていた。
パブスペースに行きタバコに火をつけ、朝食の8時まで時間をつぶす。
本来はこの日にトレイルへ出発する予定だったが、もう少しこの街に居たいという思いと、まだ歩きたくないという怠惰な感情が沸き起こり、この街でもう一泊することにした。
朝食はお洒落なワンプレート。
改めて1500円で泊まれていることが不思議に思った。
朝食後はコーヒーを飲みながら、この日にしなければいけないことを整理した。
今日泊まれる安宿の確保、OD缶・SIMカード・食料の購入。
それくらいである。
宿はエクスペディアで安いドミトリーを確保できた。
OD缶は昨晩のスタッフの情報によると、港のショップで買えるらしい。
SIMカードはショップを見つけたので大丈夫。
食料品店は大量にあるので問題ない。
チェックアウトの時間になったので、荷物を持って受付へ。
荷物を整理しているときに、
チャンギ空港で21時間の乗り継ぎを待っている間に読み終えてしまった高野秀行著「ワセダ三畳青春期」の処理に悩んでいた。
トレイルを歩くのに少しでも荷物を軽くしたい。
ただ、本をゴミ箱に捨てるのにも抵抗がある。
でもどうにか手放したい。
どうしようか悩んでいた時、パブスぺースに本棚があったことを思い出した。
「よし!このホステルに置かせてもらおう!」
これなら捨てることをせずに本を手放せる。
それに、もし日本人がこのホステルに泊まりに来た時、異国の地に日本の本があれば、故郷を思いだすのと同じように少し肩の力が抜けると思った。
そんな思いをホステルのオーナーに伝え、本を託した。
託したというより、受け取って頂いただけだが。
それでも彼は、「日本語でThank youは何て言うの?」
僕「ありがとうだよ!」
彼「ありがとう!」
そう笑顔で言った。
夢のまま終わる湯麺
11時にお世話になったホステルを出た。
次の宿のチェックイン時間は14時だ。
それまでに、今朝整理したやることリストをこなしていく。
まずはOD缶の購入から。
頂いた情報を元に、港のお店を見に行ってみた。
しかし、なかなか見つからない。
置いている雰囲気すら感じられない。
お店の前の船の停泊所に座っていた女性に声をかけてみた。
僕「こんな感じのガス管はどこに売ってますか?」
彼女「あーそこのお店にあるよ!」
すると彼女は僕を案内してくれた。
連れてこられたお店の前にはガス管がところ狭しと並んでいた。
ただ、デカい。
デカすぎる。
お店の中にはあるだろうと、少しの期待を胸に扉を開ける。
しかし、やっぱりデカい。
お店の人に小さいサイズのガス管はないか尋ねると、
「それはネットじゃないと買えないよ。」
OMG…
夢のインスタント麺生活があっさりと夢のまま終わってしまった。
アンタルヤからトレイルを始める場合は、現地でOD缶の取り扱い店舗がある。
道中で出会ったハイカーからの情報。
ガーネット色の液体
気を取り直してSIMカードを購入し、近くの公園でチェックインの時間まで待機することにした。
観光客を乗せるためのフェリーがひしめき合う公園だ。
僕は機内持ち込みで必死に持ってきたギタレレを爪弾く。
少しテンションが上がってきて歌なんかも歌ってしまった。
たまに興味本位で子供が覗きに来るが、基本的には誰も僕のことを気にしていない。
オーディエンスは、タバコを咥えて遥か彼方を眺めるおじさんくらいだ。
気づくと14時をまわっていたので宿へ向かった。
宿のオーナーはジョークが達者な男性。
荷物を置いてすぐに食料の買い出しに向かった。
「MMM Migros」という大きいスーパー。
トルコ滞在中、このスーパーに沢山お世話になった。
良くあるスーパーの中で、唯一プロテインバーが置いているので気に入っていた。
買い物帰りにとあるケバブ屋さんに寄った。
ケバブを作ってくれたのはラマザン(Ramazan) と言う男性。
お腹の空いていた僕は、彼に声をかけられるや否や鴨の様にひょいひょいとお店へ。
そこでケバブを食べていると、ガーネット色の飲み物を持ってお店を出入りする少年の姿が目に入った。
彼の運ぶそれを目で追いかけていると、ある男性がそれを受け取った。
男性はそのグラスを車の上に置き、車内をゴソゴソといじりだした。
飲み物が気になることと、その光景も可笑しく僕は声をかけてみた。
僕「これは何ですか?」
男性「チャイ!ターキッシュチャイだよ!」
僕の中でのチャイはインドのミルクティーという認識だった。
チャイがトルコではストレートティーで、トルコ人の日常的な飲み物だということも知らなかった。
チャイを食い入るように見る僕を見て、ラマザンは仲間とケタケタ笑っている。
見知らぬアジア人が友人に絡む姿がおかしかったのだろう。
その後、席に戻ると声をかけた男性が、
「こいつにもチャイを飲ませてやってくれ!」
的なことをラマザンに向かって言った。(トルコ語の為、感覚での解釈)
そして、僕のテーブルにチャイが運ばれた。
その後はラマザンにしつこいほど質問をした。
最初は面倒くさがっていたとも思う。
しかし途中から同じ卓の椅子に腰をかけ、翻訳アプリを使い、いろいろ質問を投げかけてくれた。
現地の人と繋がれた気がして少し嬉しかった。
腹一杯にケバブを食べ、宿に戻った。
ホステルの魅力
宿に着きテラスでタバコを吸っていると、洗濯物を干しに1人の女性が現れた。
名前はジャンスー(Cansu)。
トルコ語で「命の水」という意味を持つらしい。
彼女はイスタンブール出身で、一才を過ぎた頃、ドイツに移住したと言う。
彼女とは随分と長く話した。
「どうして日本人は世界中どこへでも簡単に行けるパスポートがあるのに海外に行く人が少ないの?」とか
「ドイツではラーメンに豆腐が乗っている。」とか、
日本人の国民性とかイスラム教のことなど。
彼女の名前をひらがな文字でタイピングすると、ユニークな文字を面白がって彼女はそれを写真に収めた。
結局画面はブレブレのノイズまみれだったのでテキストで送信したのだが。
また、日本の伝統的な文化の話にもなった。
僕は面白いものがあるから持ってくると言い、持参したゴザを彼女に紹介した。
太陽の温かさを感じていたはずが、気づけば虫の音が聞こえる時間に。
彼女は、僕が言葉に詰まると直ぐに翻訳アプリでタイピングをしてくれた。
とても楽しい時間であった。
ジャンスーとのお喋りが終わり部屋に戻ると、隣のベッドには台湾人の男性がいた。
彼もジャンスーと同じドイツに住んでいるという。
彼から直近に寄ったというロドス・アイランド(ギリシャ)のお土産を分けて頂いた。
受け取ったのは、キャンディーだ。
彼は笑顔で、「焼酎の味がするんだ!」と言う。
そしてアジア人の息たっぷりないっせーのせで口に頬張る。
舌の上で飴玉をこねくり回す。
そしてお互い顔を見合わせ、「ん~??」
感想はライムの味がほのかにする飴。
彼は、
「焼酎ではないね。あんまり美味しくない。友達のお土産にしよう。」
と言い放ち、すっと鞄にキャンディーをしまった。
彼のニタニタな笑顔もあって、ものすごくゲテモノ感のあるキャンディーだと思っていたが拍子抜けした。
そんな入眠直近。
ホステル、特に安いドミトリーなんかに泊まると面白い出会いや、出来事が沢山ある。
異国の地で生活している人との些細な会話や出来事の中に普段の生活で見落としていることや、気づきを得られたりすることがある。
普段感じることのない自国の魅力に気づくこともある。
これは止められないな。
フェティエという街
Fethiyeでの2日間の滞在が終了。
本来の目的を忘れそうなほど刺激的な2日間だった。
目的を忘れてこのままここに居たいと思うほど居心地の良い街だった。
「客が来るまでタバコ吸え、客が帰ればチャイを飲め」
という掛け軸がどの店にも掲げられているのではないかという印象を受けた。
そんなフェティエという街。
さて、そろそろ重い腰を上げないと。