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「ビジュアル・シンカーの脳」を読んで(2)
言語思考と視覚思考
「順を追って考える」「場合分けする」。私たちはこうした筋道のある思考を学校教育を通じて身に着けています。そして、それを支えているのが言語になります。ここが「国語が大事」と言われる理由です。
一方で、絵や目に映ったものから情報を得て(言語を介さずに)思考を展開するタイプの人たち(Visual Thinker)もいます。
この2つは、「自分はこっち」と明言できる人もいれば、「どちらかと言えば」といった比較優位の中間的なポジションの人もいます。グランディンは、他の研究者の調査を例に「小学生のうちは、明確な視覚思考タイプが明確な言語思考タイプを上回る」と述べています。
私たちのワークショップでも同じです。小学生がScratchゲームやiPadでゲームをやるとき、ゲームのルールを聞いて始める子より、視覚で早掴みして、ゴリゴリいじり回しながらルールやツボを見つけていく子の方が多い気がします。
と思えば、美術館に行って絵を見るとき、その絵をジッと見て何かを感じ取ろうとするかと言うと、そうではありません。
すぐに「これは何の絵?」と聞いてきたり、絵のヨコの題名や作品解説に目が行きます。
この辺は「言語に頼るか、視覚で思考を広げるか」ではなく、「どっちが速く情報を取れるか」の問題なのかな、と思っています。
視覚思考のメカニズム
視覚思考については脳科学で様々な研究が進められていますが、まだ分からないことも多いようです。
言語思考の場合、言語から浮かぶイメージはほぼ特定されますが、視覚思考の場合、「目でとらえた情報がどんなイメージを呼び起こすか」は人によって様々です。
そこが、まったくかけ離れたものと結びついて、常人には思いもよらぬアイデアを出現させる謎の正体とも言えます。
グランディンは本書でいろいろな研究事例を紹介しています。私が一番興味深く思ったのは、「視覚思考者は、脳内でかなり異質でイレギュラーな情報伝播と処理を行っているのではないか」との点でした。
これをイメージで表現するとこんな感じです。
映像:Kaspersky
これは私の個人的な見立てですが、脳をインターネットとすれば、思考はものすごい速度で脳内のいろいろな場所に飛んでいきます。そして「とある場所」を見つけるとそこで局地展開したり爆発的な融合進化を見せたり。
この辺の動き方が、言語思考者と視覚思考者で異なるのではないか、と。
セレンディピティ
本を読みながらもう一つ思い浮かんだのが『セレンディピティ』(Serendipity)という言葉でした。
この言葉自体が正体の掴みづらい造語なのですが、式で表すとこんな感じかと:
{(思いつき+連想)× 偶然の出会い} の n乗 = セレンディピティ
異能者や天才に多いとされる『視覚思考者』(Visual Thinker)。彼らが世の中に生み出す様々な産物。その源泉がセレンディピティなのでは、というのが私の根拠のないドテ勘です(もちろん、グランディンはそんなことは言ってません)。