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『のだ』を聴いて⇒『のだ』を読む

昨日のワークショップで、小6女子が「先生、コレ買った!」といって新刊のラノベを見せてくれました。

人気のボカロ曲『のだ』を小説化したものだそうですが、「今の子どもたちの心の中が覗けないかな」と思って、ちょこっと読んでみました。




『のだ』(大漠波新)を聴く


元ネタの曲を聴いてみましょう。

ずんだもんとか、初音ミクとか、重音テトとか。このnoteの読者には馴染みが薄いかもしれませんが、彼女たちはボーカロイドと呼ばれる歌手です。ずんだもんは、もともとは東北出身のキャラですね。



『のだ』(真野真央)を読む


小説では、このボカロ曲がきっかけとなって、主人公キナコの自分発見と成長のストーリーが展開されていきます。

<あらすじ>
キナコは友達ゼロの中学生。上手く人と話せず、けどそんな自分を変えたかった。ある日、ずんだもんの動画をきっかけにキナコは初めてカラオケへ訪れる。好きな曲を歌うと──100点を連発!? なんとキナコはあらゆる曲に声を合わせられる天性の歌声を持っていた。「私は歌で殻を破れる!」と無我夢中で『歌ってみた』を投稿。瞬く間にバズり顔出しもSNSもしない歌い手【Kinako】として一躍有名に! 認められる興奮を噛みしめる中、キナコの声を加工して使いたいという依頼に軽く承諾してしまう。キナコの声が素材の実況や解説動画が増えていく一方、次第に自分の考えとは過激な使い方をする投稿者が現れ……?

KADOKAWA MF文庫Jより引用


作中のKinako初音ミク重音テトと同様に、二次創作・三次創作を許されたため、オリジナルからどんどん離れた使い方・別人格になっていきます。




デジタルネイティブの子どもたち


物語自体は主人公の「変化と成長」というクラシカルなテーマを、ボカロを素材にして追っていますが、小説を読み進めていくうちに、インターネットやSNS社会における子どもの姿が浮き彫りになっていきます。

たとえば、


▶ 主人公「キナコ」のような子どもは多そう

キナコは自分を「一人ぼっち」と感じており、人とのコミュニケーションに苦手意識を持っている。彼女はあえて友だちを作りたいとも思っておらず、自分の世界に閉じこもる傾向がある。

キナコは「Kinako」という自分自身のバーチャル・アイデンティティ(化身)を創り出し、SNSを通して社会とのつながりを求めていく。


▶ 「一人ぼっち」を好む一方で「承認欲求」が強い

現実の世界(オフライン)では内向的で人付き合いが苦手でも、匿名の世界(オンライン)では化身としてアイデンティティを表現し、承認を求める。

彼らは、ネット上での様々な活動や自己表現を通じ、他者からの認識や評価を得ることで、自己肯定感を高めようとする。


▶ デュアル・アイデンティティの役割

デジタルネイティブと呼ばれる世代は、「リアルな世界にいる自分」と「バーチャルな世界にいる化身」の2つのアイデンティティを使い分けるようになる。

SNSやインターネットがコミュニケーションツールとして普及してくると、子どもたちは「その中でどのような言動や対応をしたらいいか」を考え始める(「子どものアルゴリズム」が生まれる)。

「子どもアルゴリズム」は他人からの評価の影響を受けやすく、その結果、『ルッキズム』が重要な価値観になり、『自己分析好き』も増える。



▶ SNSは「誰もが平等で自由なコミュニティ」なのか

SNS社会は、階層化が深化する現実社会からの逃げ場のように思われるが、そこはそこで、格差や差別、偏向思想が生まれやすい沼(フィルターバブル)になっていく。



いかがですか。『のだ』を子ども目線ではなく大人の視点で読むと、こんなドロっとしたネタが見え隠れしてきます。

次回は、こうした社会行動学から見て面白そうなテーマを、少しずつ掘ってみたいと思います(シロウトの直感的な考察レベルですが)。


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