日テレ「セクシー田中さん」調査チーム、23日から調査を開始
日本テレビの定例社長会見が2月26日、東京・汐留の同局で行われ、昨年10月期放送の同局ドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子さん(享年50)が急死した問題を受け、同局は2月15日に「社内特別調査チーム」を設置、調査を23日に開始したと報告しました。
いかにも動きの遅い対応で、テレビ局のガバナンスは大丈夫か、テレビ局のスタンスはそれほど強いものなのかと思わざるを得ません。日本のコンテンツ市場は少子高齢化の要因で市場成長率が鈍化しています。IPコンテンツホルダーは、立場上、弱いのでしょうか。
しかし、世界のコンテンツ産業は成長しており、今後も市場拡大が予想されています。近年のAmazonやNetflix等のプラットフォーマーによるインターネットを介したデジタルコンテンツの有料配信サービスが拡大したことにより、急速にオンラインでのコンテンツ消費が拡大しています。これにより、これまでマスメディアを中心とした流通事業者の影響を受けやすかったコンテンツ産業において、SNSやファンコミュニティなど消費者の影響力も増していると思われます。
今後、コンテンツはグローバル化、マルチメディア化するのは必須の流れだと思います。優秀なコンテンツのIPは世界の獲得競争に晒されます。IPコンテンツホルダーは、原作の世界観はもとより、原作者の著作人格権をいかに主体的に守っていくかが求められてきます。
「セクシー田中さん」問題は、漫画を実写化するドラマ制作において、著作権について、特に著作人格権をIPコンテンツホルダーが守ってあげられなかったことにあります。その後の報道では、原作の世界観を守ることについても契約に明記されていなかったことも指摘されています。これでは、原作を知るファンが騒いで当然だと思います。
その意味で、著作権を守る立場にあった原作者の代理人である小学館の責任も大きいと思います。ビジネスに偏りすぎて、著作権に対する配慮がなさすぎだったのではないかと思わざるを得ません。原作のファンの存在をどれくらい考えていたのかと思います。
新型コロナウィルス感染拡大やデジタル化による社会生活の変化の重なり、コンテンツ消費傾向も一層変化しており、メディアとデバイスに依存していた流通が、スマホをはじめとするデジタル端末の普及と映像コンテンツを横串としたプラットフォームの発達によって、大きく事業環境が変化しています。
若者がテレビを見ないと言われて久しいですが、広告収入で成り立っているテレビのビジネスモデルは弱体化しており、テレビ放送のプラットフォームについて、広告的価値が侵食されている中、テレビ局にIPホルダー獲得競争の優位性はなくなっていくだろうと思われます。
対照的にコンテンツの流通面では米国を中心とした巨大テック企業による配信プラットフォームが日本を含め世界各国の市場において存在感を増しており、コンテンツ制作面においても中韓のコンテンツ企業が台頭してきています。
マネタイズするには戦略が必要です。マルチメディア化するにあたり、原作の世界観、原作者の著作人格権をいかに守るかは大前提となるでしょう。特に漫画の実写化にあたっては原作の世界観、原作者の著作人格権については契約書に明記すべきものと思います。
グローバル化にあたっては、文化や風習の違いから、ローカライズする許容度もどこまで許すかが課題となってくるでしょう。コンテンツIPホルダーは、決して弱い立場ではありません。国内市場での流通を前提にするのではなく、企画段階から海外のファンへ作品を届けることも念頭において経営マインドを変え、海外企業との協業や自社IPの海外企業へのライセンスアウトなど事業成長に取り組むことも考えなければなりません。
今回の「セクシー田中さん」問題は、日本のコンテンツ産業が事業成長のためにいかに取り組むべきか、著作権保護を契約面でもしっかりとしたスタンスで臨まなければならないということを感じました。マルチメディア化だけでなくグローバル化も念頭において、今ほど事業関係者のスタンスが問われていることはないと考えます。今回のような悲劇を二度と繰り返さないでほしいと思います。