王子ホールディングスの企業価値創造
王子ホールディングスは渋沢栄一が1873年に設立した起源を持ちます。当時、外国産しかなかった洋紙を国産で供給する高い志から発足し、近代工業の礎となり、日本の産業発展を下支えしてきました。それが現在、当社のPBRが0.6と低迷にあえいでいます。PBR(Price Book-value Ratio)は株価を1株あたりの純資産で求められ、単位は「倍」です。企業の資産内容や財務状態をもとに株価水準を測る指標で、株価純資産倍率とも呼ばれます。
PBRが1倍を超えていれば株価が純資産額を上回って高く評価されていますが、1倍を下回れば株価が純資産額より低く評価されていることを意味します。PBRが1倍を下回る水準では、解散価値を下回るということになり、理論上はその企業を買収し、設備や有価証券を清算すると儲けが出る状態です。当社のPBRが0.6と低迷にあえいでいる原因は2年前から自己資本の活用による収益率であるROE(Return On Equity)が低いことに原因があるようです。
そのため、事業ポートフォリオの見直しと成長シナリオを当社は行っており、2024年3月期の売上が1兆7000億円の見込みに対して2030年3月期には2兆5000億円の売上目標を立てています。日本は少子高齢化のため、大人用おむつの戦略、子供用は人口成長が見込める東南アジアに注目しています。成長シナリオについてはイノベーションを推進し、新素材を開発することで描こうとしています。
当社は社有林を約60ヘクタール所有しており、維持・管理しながら、この木材資源を有効活用しています。木からパルプにするまでの設備を有効活用し、新素材の開発を行っています。そのひとつが、エタノールです。バイオエタノールは米国がとうもろこしから生産していますが、食糧との兼ね合いがあり、課題となっています。当社は木材を活用したエタノール開発で、鳥取県米子市に43億円をかけてパイロットラインを作り、年間1,000klの生産を行う予定です。他には木材からとれるヘミセルロースを医薬品向けに開発も行っているようです。
当社の存在意義は、「森林を育て、その森林資源を生かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」と書かれて言います。健全に育て管理された森林は、二酸化炭素を吸収、固定するだけではなく、洪水緩和。水質浄化等の水源涵養、生物多様性や人間の癒し、健康増進等にも貢献する効果があります。そして、森林資源を生かした木質由来の製品は、その原料が再生可能であり、化石資源由来のプラスチック、フィルムや燃料等を置き換えていくことができます。
当社の製品は2011年からFSC認証紙が採用されています。FSC認証紙とは、森林管理協議会が定めた規格に従い、適切に管理された森林から生産された木材を使った紙のことです。森林の管理や伐採が環境や地域社会に配慮して行われているかどうかを評価・認証し、そうした森林に由来する製品が証明された紙のことを指します。当社の環境問題に真剣に取り組んでいる姿勢や取り組みは、森林保全の支援や地球環境の保全に貢献していると思います。
当社の独自技術である紙の表面の凹凸をつけることで吸水速度が他社より3倍高い、肌触りが優しい、厚手強度が高いなどの特徴は業界首位の座を確固としたものにしています。人手不足には省人化、ロボット活用やデータ管理などで取り組んでいます。物流問題には大消費地に工場を建て、これまでトラックドライバーが荷物の積み下ろしをしていましたがフォークリフトを使用し、トラックドライバーの負担を軽減し、パレットは同業他社と連携して規格化して問題に取り組むなどしています。脱炭素化では太陽光パネルを工場に設置し、必要電力の15%を賄っています。
紙は地球環境問題の敵とみられがちですが、当社の取り組みをテレビで拝見して、あながちそうとも言えないと感じました。企業価値を上げるためには、このような環境問題への取り組みや成長シナリオをPRすることでPBRを改善し、投資家からの賛同を得ることができるのではないでしょうか。バブル崩壊後、長らく日本企業の解散価値であるPBRが1倍割れとなっている企業が上場企業の半分を占めていると言われてきました。日本の企業経営者が、企業価値創造に対する理解が乏しいことが理由であり、その結果、日本の上場企業にPBR1倍割れが多いのではないかと考えています。