レパトリ減税は円安抑止の処方箋になりうるのか
海外子会社の資金を本国に戻したり、海外資産を売却したりするレパトリエーション(レパトリと表記)に際して、その金額に課される法人税の税率を下げるなどして国が減税する措置が34年ぶりの円安の急激な進行を抑えるとして期待されています。
海外資産を積極的に国内に還流させ、企業の設備投資増加や雇用拡大を喚起する目的で用いられる政策で、米国ではブッシュ政権時に2005年の1年限定で実施され、約3000億ドルが米国に戻ったと言われています。トランプ政権時にも行われました。
ブッシュ政権時のレパトリ減税は為替で米ドルが全面高となり、2004年末に1ドル103円台だった相場は118円台までドル高円安が進行しました。日本でも戻らぬ海外収益の問題が顕在化しており、米国当時のブッシュ政権のようにレパトリ減税の導入が話題となっています。
海外内部留保残高は50兆円超と過去最大規模まで膨れ上がっています。6月にまとめる骨太の方針では「日本企業が海外で得た利益の国内還流策」としてレパトリ減税導入に向けた方針を示すとの見方が広がっています。他国経済に影響を及ぼす為替介入とは異なり、自国企業の資金を国内に還流することで経済を活性化させ、円買いを促している円安是正も図れるので早期導入を求める有識者も多いようです。
減税の対象と想定されているのは日本企業などが海外子会社などから得た「海外直接装置収益」の約20兆円です。投資収益の半分が現地で再投資されて日本に戻ってこない点が課題として指摘されていましたが、この投資収益を日本に送金する際にかかる税金を時限立法で減税し、日本に還流させる策を検討するとみられています。
ただ、日本では2009年度の税制改正で外国子会社から受け取る配当の95%相当額を非課税所得とすることを認める「外国子会社配当益金不算入制度」という税優遇策が導入されています。海外子会社の所在国と日本での二重課税を防ぎ、海外で稼いだ利益を日本へ還流させる目的で導入されましたが、その利益の大半は日本より金利が高く成長余力がある海外で再投資されているのが現状です。また、仮に非課税になっていない残り5%の配当益金を税優遇したとしても大きな還流効果は見込めないとみる向きも強いです。
レパトリ減税は一時的な効果を狙ったもので時間稼ぎに過ぎません。急速に進行する円安についても一時的なけん制効果しか望めないものです。本質的には日本の構造的な課題、対内直接投資による成長戦略、電源構成、人手不足問題など時間がかかる問題に取り組むことが最も重要です。
潜在成長率をいかに高めるストリーリーを描けるか、稼ぐ力をいかに高めていくか、人手不足を移民によって埋め合わせるのか自動化によって効率を高めていくのかといった処方箋を早急にたて、取り組まなければなりません。還流させた利益を国内の賃上げや設備投資に使った企業に税優遇や補助金を与えるなどのインセンティブも考えることも必要でしょう。