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先端AI半導体の競争が激化

 米GPU(Graphics Processing Unit)半導体大手のエヌビディアは18日、最新の人工知能(AI)半導体を2024年後半に投入すると発表しました。データセンター向けの半導体で、従来に比べてサーバーでAIが質問に答える際のデータ処理の性能を高めました。生成AIの需要が急拡大する中、高性能な半導体を投入して競合企業の引き離しを狙う形です。GPUは、今日の生成AI時代の基盤となっているため、人工知能のレアアース、あるいはゴールドとも呼ばれています。
 企業のIT責任者の中には、人工知能(AI)向け先端半導体の不足が来年には改善すると予測しつつも、それまでの間、新しい生成AIを活用するためのハードウェアを確保する賭けには出ないという人もいます。エヌビディアが主に製造している画像処理半導体(GPU)はAIブームの原動力となっています。大量の計算を同時に行う並列処理を可能にするからです。ソフトウェアメーカーのシノプシスをはじめ、各社がエヌビディアのGPUを利用し、それぞれの製品に人工知能(AI)をより多く搭載しています。
 エヌビディアが今回発表したAI向けプラットフォーム「Blackwell」には、搭載する新GPU「B200」が搭載されています。2080億個のトランジスタを搭載し、現行の「H100」と比較して、AI向けの作業で5倍の処理能力を発揮します。消費電力も1兆8000億パラメータのAIモデルをトレーニングするには、現行のHopper GPUでは8000個のGPUで15メガワット必要でしたが、新スーパーチップであれば2000個で可能で、消費電力は4メガワットで済みます。
 Blackwellプロットフォームの製品や、今年後半からパートナーから提供される予定で、Google, Meta, Microsoft, OpenAI, Oracle, Tesla, xAI, Amazon傘下のAWS, Dellなどが採用する見込みとのことです。最先端AI半導体は、製造コストと運用コストを考慮すると、最先端ノードCPUよりも1-3桁コスト効率が高いと予想されています。主にデータセンター向けに使用されていますが、今回の他社との提携では、データセンター以外の様々な用途にも広がり、今後もエヌビディアの業績拡大が見込まれます。また、台湾TSMCやソフトウェアメーカーのシノプシスとの協業も発表され、最先端AI半導体のトップランナーの座を盤石にして維持していく構えです。
 近い将来に社会実装が期待されるAI、自動運転、メタバースなどは莫大なデータ処理が必要となり、演算処理能力の大幅な性能アップが必要となります。しかし、実際には先端半導体の微細化速度はスローダウンしており、物理的な微細化の限界が近づいており、既存技術だけでは将来的な演算要求性能を達成するのが難しくなることが予想されています。
 環境問題としても製造に使用される消費電力も増大しており、先端半導体の製造コストは世代を追うごとに上昇しており、課題となっています。そのため、コスト低減に有効で、低消費電力につながり、またデバイス全体の性能をあげることができる3次元実装技術に注目が集まっています。
 3次元集積を含む先端半導体は現在、主にスマホで使用されていますが、既にスマホの高性能化は飽和しつつあり、先端半導体はスマホにとって過剰スペックになりつつあります。その代わりに近年はサーバー等で使用されるHPC(High Performance Computing)が先端半導体の主用途になりつつあり、今後もこの傾向は続いていくと思われます。
 AIニーズが高まることを受けてGPUを中心としたAI処理の負荷、中でもデータセンター向けの処理ニーズは急激に高まってきています。その分、消費電力が上がりますので、社会全体にとっては大きな負担になります。そのため、各社は現在の勝ち組であるエヌビディアを意識して、「AI特化型プロセッサー」を開発し、GPUからの脱却を目指そうとしています。
 GPUは「演算をする」という意味ではAIに向いていても、構造としては最適という訳ではありません。一方で市場ニーズは拡大傾向にあり、その波に乗ってエヌビディアの評価はうなぎのぼりです。そこに割って入ることができれば、ビジネスチャンスも価値も大きいです。だから、多くの企業がAI向けプロセッサー開発に力を入れています。例えば、マイクロソフトも昨年秋に独自のAIアクセラレータチップ「Azure Maia」を発表しています。
 AIには予算と研究者が集中しているからこそ、半導体もロジックも急速に進化しています。半導体受託製造大手のTSMCは、人工知能(AI)向け半導体生産に不可欠な先端パッケージング工程を日本に設置する検討をしています。AI半導体の需要急増でTSMCは同工程の処理能力が不足しており、半導体製造装置や材料メーカーが集積する日本を候補として考えているようです。最先端半導体の技術、量産技術に関係する各社の競争が激化していますが、日本企業にとってもビジネスチャンスと捉え、様々な企業が好機として事業展開していくことになると思います。

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