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「セクシー田中さん問題」最終報告書にみる著作人格権と契約意識

 日本テレビのドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが急死した問題で日本テレビと小学館はそれぞれ社内の特別調査委員会の報告書を発表しました。小学館側の調査では脚本家が交流サイト(SNS)に「最後は原作者が脚本も書きたいと要望。困惑したが協力した」と投稿したことに日テレ側が削除を求めなかったと指摘しました。この投稿に芦原さんが反論を投稿しましたが脚本家が思いがけず批判され芦原さんは責任の重圧を感じたのかもしれないとしています。
 日テレは社内特別調査チームの報告書を5/31に発表しました。これによると原作者と小学館が日テレを通じて脚本家に要望したことがかなえられず、原作者が不信感を持ちドラマの最終9、10話の脚本は自ら書きました。降板した脚本家はスタッフ名簿に協力などの形で名前を入れるよう求めましたが原作者に認められなかったため、その脚本家は名前が入らないならSNSに投稿すると日テレに伝えて投稿しました。日テレは表現の自由があるとしてその脚本家の投稿を止めませんでした。脚本家の投稿後も削除の依頼について日テレはしていませんでした。
 芦原さんの反論の投稿には小学館の社員3人が協力していました。SNSによる炎上を心配する人も社内にいましたが、上司に十分に相談したとは言えず上司も担当役員まで報告していなかったと問題点を挙げました。報告書では日テレ側が原作者の意向を代弁した小学館の依頼を素直に受け入れなかったことが第一の問題と指摘しています。
 最終報告書が日テレと小学館から発表されましたが、著作人格権を軽視したと感じるこのケースは非常に深刻で著作権者の権利を守るためにどのような対策が必要かを考えさせられます。著作人格権は著作物に対する人格的な権利を保護するもので、1.著作物を公表するかどうか、いつ、どのように公表するかを決定する公表権、2.著作物を公表する際に著作者の氏名を表示するかどうかを決定する氏名表示権、3.著作物の内容を無断で変更されない同一性保持権、の3つが主な要素です。
 著作権者の権利を守るための対策として法的枠組みの強化があります。著作人格権の侵害に対する厳しい法的措置を導入する、著作権法の改正を行い著作人格権の保護規定を明記します。また、契約の透明化も必要です。著作権者とメディア企業の間で交わされる契約を透明化し公正な条件で取引することを保証します。著作権者が著作人格権を適切に主張できるようにするため契約書に具体的な条項を含めます。著作権侵害や著作人格権の侵害を監視する独立した第三者機関を設立し迅速な対応を可能にすることも大事だと思います。著作権者が問題を抱えた際に相談できる窓口を提供する必要もあります。
 日テレや小学館のようなメディア企業やコンテンツ制作者に対しては著作権教育を強化し、著作人格権の重要性を周知することも大切です。私たち一般市民にも著作権と著作人格権についての理解を深めるための啓発行動も重要です。著作権者に対する精神的サポートを提供する体制を整えること、ストレスやプレッシャーに対処するためのカウンセリングサービスを提供することも求められます。これらの再発防止策が日テレや小学館の報告書には不足していたと感じます。どれだけ認識していたのでしょうか。一部報道によれば契約書自体がない、契約を結ばずに日テレはドラマ化したという衝撃的な話もあり、本当なのでしょうか。公的電波を使うマスメディアが本当にそんなことをしたのでしょうか。疑問が残ります。
 公益社団法人日本漫画家協会理事長を務める里中満智子さんの個人的なコメントとして「原作に愛情をもっていただきたい」とありました。物語がつながっている場合、ドラマ化は最終回を迎えるまで待っていただきたいということです。それは漫画を作っていて途中で考えが変わって結末を変えたりすることがあるからです。視聴率稼ぎに人気漫画を一刻も早くドラマ化したいというメディア側の思惑が起こした悲劇なのかもしれません。原作に愛情があれば「最終回まで待ちますので映像化について考えておいてくれませんか」、「連載途中でもそろそろ映像化してもいいと思われたらぜひご連絡ください」など誠意をもってアプローチすることも可能です。
 若い漫画家の立場として映像化や契約について「これで仕事を切られたらどうしよう」と不安になり出版社に対して自分の考えを言えない、断れないものだと思い込んでいる人がいます。そもそも契約を結ばずにテレビ局側がドラマ化したのであれば由々しき問題です。メディア側が優位な立場にあるとすれば不当行為にあたると思います。まずは契約をしてからの話ですが漫画家が意見を言える環境づくりも大切です。実際の契約はどうだったのか、その点を踏まえたうえでの最終報告書を公表してほしかったです。

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