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部屋が旅する

日々の暮らしに「+room」という提案を―― 部屋が旅する

武藤尚美さん(blue house代表)
取材・文・写真/山脇益美

 さわやかな風が吹く秋晴れの日、西大分の港から山側に向かう。川沿いの道をのぼり、住宅街にさしかかる入り口にある、名前のとおり、青色の外壁が〈blue house〉の目じるしだ。
 武藤尚美さん(以下、ナオミさん)が私たちを迎えてくれると、耳の垂れた愛犬・リンダも後ろからちょこちょこと駆け寄ってきてくれた。婚姻は解消したものの、現在もパートナーとしてともに活動する大工職人・ジェイミーさんは、敷地内の仕事場でこつこつ作業中。
 さっそく家の庭先に設置された〈+room(プラスルーム)〉に案内してもらった。クッションに座ると、床や壁から木の香りが漂う。窓から陽がさし、なんとも心地いい。「ソーラーで動く、自家発電の小さなエアコンをつけているのよ」なるほど、部屋全体にさらっとした空気を感じる。こぢんまりとしながらも快適な空間を目指してつくられていることがよくわかる。

小屋ではなく「部屋」

そんなコンセプトが印象的な+roomの構想は2020年まで遡るという。
 ナオミさんは、地元・大分で輸入住宅会社に勤務後、ジェイミーさんとの結婚を機にアメリカへ渡り、建築会社を設立した。しばらくして日本に帰国後、比較的大きめの注文住宅を長期的に建てる経験を重ねてきたいっぽうで、自分自身は、アメリカでは「タイニーハウス」と呼ばれる、小さな家で生活する暮らしのあり方に憧れを抱いていた。ひとことでいうと、多くのものを持たず、ローンにも縛られずに、ミニマルに暮らすという思想だ。自宅兼仕事場を自分たちで建て、外壁が青いことからblue houseと呼ばれるようになった。やがて、自宅や敷地を開放した〈blue market〉というマルシェイベントを定期的に行うようになる。
「小さな暮らしへの憧れ」と「自宅を開放したマルシェイベント」は、ナオミさんにとってどちらも大切なものであったが、心のどこかでそのふたつが別々のところにある気がしていたという。「いつかこれ(思い)とこれ(実践)が合体したかたちになるものをつくれないか」と、ずっと模索していたのだとか。


いかに自分たちの力で生きていくか

+roomを具現化するきっかけとなったのは、コロナ禍に、とある経営とブランディングの講座に参加したこと。自分のやりたかったことを半年間かけて突き詰め、心のうちをひとつひとつ掘り下げては、毎月毎月、悩みながら言葉にしていった。
 もともとナオミさんは、山や川、海など自然のある場所に行くことが好きだった。遊びに行くだけではなく、新鮮な空気を吸い込める自然の近くで暮らしたい。そんな気持ちに「おうち時間」や「リモートワーク」の普及しはじめた時世が重なった。都会で働く人だって、山や海の近くに拠点を持って、もうひとつの場所で暮らすことも不可能ではない。
 自然のそばで趣味や仕事に没頭したり、くつろいだりできる部屋を今の暮らしにひとつ「プラス」する。次第に、そのようなイメージが膨らんでいった。「以前から、大好きなものだけを厳選した、本当に小さな空間で暮らしたいとイメージし続けてきたの」

「小さな」というのは、建物の体積だけでなく、なるべく法律や制度に縛られない仕組みで構成する生活のあり方だともナオミさんは言う。例えば+roomに、ソーラーによる自家発電システムを搭載することにより、自然災害による停電にも対応できる。雨水を活用した貯水タンクや、コンポストトイレを近くに設置すれば、オフグリッド(国や市が管理している公共インフラにつながないというシステム)を実現できる可能性も十分にあるそう。
 身の回りも、本当のお気に入りを厳選して、ひとりひとりが使うエネルギーを小さくすることで、環境に負荷をかけないようにする。「いかに大きいものに頼らず、自分たちの力で生きていくか」「そのために何ができるか」というのがナオミさんの考え方だ。


物理的にも、精神的にも切り離された空間

 そのぶん、建物自体を、質実剛健につくることに対しての努力は惜しまない。
 建築資材は木の温かみを持ちながらも持久性があり、強度が高い米松(ベイマツ)を使用する。建物を面で支える2×4工法を用いることで耐震性、気密性、断熱性にも優れている。外壁にはガルバニウム鋼板という、本来は屋根などに使う素材を用いているので、横殴りの雨風などにも十分耐えうるし、サビに強いのも特長だ。「例えばいつか要らなくなったとしても、移動ができるし、リユースもできる。分解してリサイクルすることだってできます。メンテナンスして、次の人へ、中古品として安く売ることもできる」
 +roomの活用法は無限大だ。趣味の部屋にしてもいいし、子ども部屋にも適度な広さ。自宅と切り離して建てることができるから、くつろぎのスペースにしたり、書斎やアトリエにしたり。「いわゆる増築ではなくて、物理的にも、精神的にも切り離された空間、というものをつくってみたかった。夢のひきこもり部屋というのかな」とナオミさんは付け足す。
 ひとりひとりが自分と向き合うための空間であると同時に、「ひらく」ことにも可能性があるという。小さなお店にしたり、商談スペースにしたり、私設図書館にしてときどき開放するのも面白そう。〈自分だけの秘密基地〉をつくるのにもってこいだ。


どこで暮らしてもきっと一緒だったと思うなあ

「昔は、世界中を飛び回って、将来の自分はイタリアあたりに住んでると思ってたよ。でも、どこで暮らしてもきっと一緒だったと思うなあ」日々、友人たちとのコミュニケーションを大切にしながらも、土着や制度に縛られず、自分自身で軽やかに移動して、そのときどきの暮らしを探究してきたナオミさん。
 +roomは、トラック1台あれば基本的にどこへでも持って行くことができる。まさに〈部屋が旅する〉のであり、そんなあり方がナオミさんの人生の道のりそのもののように感じた。ひとつの答え合わせ、ともいうのだろうか。
「まずは、自分だったら+roomでこういう部屋をつくってみたいな、と興味を持ってくれる人に出会って、話を聞いてみたい。そのためには、自分から会いに行かなくちゃね」そう話す彼女の展望は山のように雄大で、海のように広がっていた。


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プロフィール

取材・文・写真
山脇益美 Masumi Yamawaki  /  絶景書店

詩人。京都生まれ、別府在住。
子どものころから、散歩をしたり、いろんなことを想像したりすることが好きでした。そんななかで生まれる、さまざまな出会いや感情、ふと思い出すことなどを集めて文章を書いています。

Instagram・X  @mamawaru



blue house  ムトウナオミ

見かけは日本人中身はアメリカ人の私と 、見かけはアメリカ人中身は頑固親父の父母をもつ私の娘は一体どんな大人になるのか!?
離婚後もそのまま一緒に仕事をしています〜。
アメリカから資材を輸入して家を建てる仕事です。この超円安の日本でどうサバイブしていくのか、全く刺激的な人生です。 新しいプロジェクト+roomに周りのみんなを巻き込んでいます!

blue house(大分ブルーハウス)
 〒870-0871大分県大分市東八幡2-1
 Mobile  080-5202-8695

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