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癒されたい時に効くドラマ『それでも僕らは走り続ける』
遅ればせながら「それでも僕らは走り続ける」を完走。
4月の終わり頃から精神的に参ってしまうことが次々と発生し、お疲れモードだった私の心を癒す作品だった。
この作品が癒しをもたらすのは「いい人たちによる優しい物語」だからだと思う。
劇的に展開するドラマも刺激的でいいけれど、私にとっては(特に今の私にとっては)「癒し」もドラマを観る重要なモチベーションのひとつ。
ひと時の癒しを得るために、せっせとエピソードを観進めた。
1.母性本能をくすぐるソンギョムの「キョトン顔」
この物語で最大級の癒しパワーを持っているのはキ・ソンギョム。
彼を演じたイム・シワンの存在は大きい。
「毒がない、且つ信念を持ったイイ人を演じさせれば、彼の右に出るものはいないのでは?」と思うのは私だけだろうか。
韓国ドラマ「ミセン」でもそうだったけど、芯が強い、悩める優しい男という役どころは、イム・シワンのルックスや話し方を見るにつけ、はまり役だと思うのだ。
さて、このドラマにおけるイム・シワンの役どころは、政治家の父、トップ女優の母、そしてゴルフ界トップの座に君臨する姉を持つ、陸上選手キ・ソンギョム。
ソンギョムは怪我によって槍投げから短距離走選手に転向した過去を持つ。
弛みない努力を重ねた結果、短距離走選手としてトップクラスにはなったものの、ライバルに勝てず2位止まり。「走り」よりも家族構成ゆえに有名という状況に甘んじており、パッとしないといえばパッとしない。
とはいえ、いわゆる恵まれた階層に生まれ育った男であることは間違いなく、しかしその一方で、恵まれているがゆえの悩みを抱えているという設定。
ミジュに出会うまでのソンギョムは、政治家の父の野望に付き合わされ、つまりは家族のために生きていた。その影響からか、彼は「自分の人生に興味がない=自分を愛せない」という健全ではない状態にある。
恵まれている一方で「自分の信念通りに生きることが容易でない現状」が常態化してしまっているソンギョム。だからなのか、意に沿わないことがあったとしても淡々と受け流す術を知っている。
そこにミジュの登場だ。
「自分を大事にすること」「自分を愛すること」を諭す彼女に出会ったことで、彼は少しづつ変わっていく。
さて、ここで特出すべきは、ソンギョムの変化がとても穏やかなこと。
それはソンギョムの性格に起因する。可愛がっている後輩が暴力事件に巻き込まれたり、それを告発したり、父親の妨害を受けたりと、それなりに事件は起きるのだが、感情的になることが少なく常に冷静なソンギョムは、実に飄々としている。
あるいは、イム・シワンが演じるからそう見えるのか?
とにかく、演者イム・シワン独特の「キョトン顔」であらゆる事象を乗り切るソンギョム。彼が変わっていく(成長していく)過程もとても穏やかなのだ。そして視聴者はその「キョトン顔」に妙な安定感と安心感を感じると同時に、母性本能をくすぐられてしまうのだ。
そしてもうひとつ、心優しい&世間ズレしていないソンギョムの姿は視聴者の心を鷲掴みにする。
ミジュのためにせっせと料理を作る姿然り、慣れない二日酔いを経験し戸惑う様子然り。
ソンギョムは「キョトン顔」と共に、その存在自体が「癒し」として、絶大なパワーを発しているのだ。
2.女に嫌われない女、オ・ミジュ
一方、恋の相手であるシン・セギョン演じるオ・ミジュの人生は、ソンギョムとは対照的。両親と死に別れ、子供の頃から苦労の連続。努力の末、映画翻訳家になった。
世間の厳しさとを身にしみて体感してきたのがオ・ミジュだ。
彼女は恩師のパワハラを受けたり、ソンギョム父に賄賂を渡されたり、弱い立場の者ならではの、あらゆるイヤなことを身をもって経験している。
肌身離さず持っていた偽物の拳銃も、甘くない現実を生き抜くためのアイテムだろうし、彼女のしっかり者気質もそんな環境下で必死に生きるうちに身につけたものだろう。
さて、ミジュの場合、ソンギョムとセットになることで癒しパワーを発揮するのが特徴だ。
ソンギョムが発する癒しパワーがその源にあるとしても、ソンギョムの心を癒すのがミジュだとするならば、ソンギョムが発する癒しパワーの創生にミジュは力を貸していると言える。
つまり、ソンギョムとミジュがセットになることで癒しの相乗効果が発揮されているのだ。
そもそも、ミジュは気の強い女の部類に入るだろうし、少なくとも癒し系の女ではないけれど、そこも含め、視聴者は自分の人生を自分で切り開いてきたミジュに共感する。そして彼女は、その普通さゆえに嫌味がない(対極として描かれているのは財閥令嬢でエージェント代表のソ・ダナ)。
そういう意味で、ミジュは女に嫌われない女でもある。
視聴者は、ミジュに感情移入することで「ソンギョムの癒しパワーをミジュと共に享受し、それと同時にソンギョム&ミジュカップルが発する別の癒しを堪能する」という構図が、このドラマでは成り立つのではないかな。
ところで、個人的にはミジュの先輩メイがとても好き。
ミジュもメイの存在が自分を支えていることをよくわかっていて、二人の関係は理想的。メイのような人(自分の人生にとって欠かせない大切な友人)が側にいるミジュの人生は、それだけでも心強く、幸せだと思うのであった。
3.フラットな関係が「癒しパワー」を後押しする
ソンギョムとミジュ。
彼らの関係はとてもフラット。
いわゆるイイとこのお坊ちゃまであるソンギョムは、そうでない世界で生きている人間に対する偏見がなく、一方のミジュはと言えば、地位や財力に平伏すタイプではない。
つまりは育った環境や生きる世界が違っても、二人は臆することなく自分たちの気持ちを第一に、丁寧に関係を構築している。
これは結構大切なポイントで、主役カップルのフラットな関係性がドラマ全体に「平和的」な空気をもたらしている。そしてそれこそが、ソンギョムとミジュが発する癒しパワーを後押しするのだ。
一方、セカンドラブラインのソ・ダナと大学生のイ・ヨンファの関係は、いわゆる「身分違いの恋」的な設定で、フラットな関係性ではない。これはソンギョム、ミジュカップルとの対比なのかもしれないけれど、いわゆる恋愛ドラマの王道を行く「障害」ゆえに悩み苦しむという展開で既視感がある。そういう意味で、主役カップルのフラットさはある意味新しいのかも。
ともあれ、登場人物のほとんどがイイ人なこのドラマ、極めて平和的、且つ、登場人物の癒しパワーがお見事だが、この癒しポイントがツボでない人にはやや退屈なドラマに感じるかもしれない。
でも、この癒しにハマったら最後、ソンギョムが選んだ新たな人生を応援したくなるし、ミジュにこの恋を楽しんで欲しいと心から願い、二人の幸せを祈りたくなるのだ。
いずれにしても、精神的に参っている時期のサプリメントとなったこの作品には深く感謝。
いろんなタイプのドラマがあるけど、癒し系ドラマとしてはかなりレベル高いのではないかな、と思うのであった。