【掌編小説#10】煙とアンバサ
格好つけのためにタバコを吸っている『ガキ』な僕は肺に煙を入れる事も知らずふかしで吸っていた。
そんな僕に『大人』な彼女は「こうやって肺に入れるんだよ」と吸い方を教えてくれた。
初めて肺の中に入って来たタバコの煙はこれまでにはない感覚だった。
吐き出される煙もまたこれまでとは違った。
初めの感覚。ちょっとだけ『大人』になった気がした。
彼女は僕に『大人』を教えてくれる人。お酒にタバコ、バイクの乗り方なんかも教えてくれた。
付き合っている訳ではない。
時々僕にTELをしてきては遊んだり「一緒に飲もう」と誘ってくる。
これまでは何も無かった。
1人暮らしをしている彼女の家で2人で飲んでいても何も起きない。日付が変わる頃には帰るのがいつもの流れ。今まではそんな関係だ。
でも今日は何かが起きるかも知れない夜。
「朝まで飲もう」と誘って来たのだ。
昂る気持ちを抑えるように何本もタバコを吸った。
「一回肺に入れたらもう大丈夫でしょ?」
一度煙を受け入れた肺はそれを次々と入れては出しを繰り返す。
何度も何度も何度も…。気持ちを落ち着けるために一本吸い終わってはまた次の一本に火をつける。
鎖のように繋がるタバコは初めての夜への期待と衝動。
立て続けに五本吸った頃、目の前の世界が回り始め、同時に吐き気が襲ってきた。
(…酔ったのかな?)
強烈なめまいと吐き気に襲われながら、それでもカッコ悪い姿を見せたくない。
明らかに顔色の悪いであろう僕に彼女は「大丈夫?」と少し微笑みながら見つめていたが「ちょっと風に当たってくる。」と外に出た。
外を歩きながら風にあたれば落ち着くだろう、
そう思いながら夜道を1人で歩いた。
ぐるぐる回る世界はいつか止まると。
彼女の待つ部屋へ早く戻ろうと自販機で売っている『アンバサ』を買い、公園のベンチに座りながら吐き気とめまいが治まるのを待った。
少し吐き気とめまいが治ったところで一気に『アンバサ』を流し込む。
だが乳白色の炭酸飲料は僕の胃の中で治った吐き気を再び呼び覚ます。
その日僕の口から吐き出されたのは白い煙とアンバサ。
結局僕は『ガキ』のままだった。
〈完〉
【解説という名の言い訳】
掌編小説も節目の10作目です。
相変わらずの自分の経験を基にした素人小説。
書き続ければいつか上手くなるのかな?
そうなったら細部を修正して書き直したい気もします。
『気持ちはずっとガキのままな者』
ミノキシジルでした。