【掌編小説】『ありがとう』薬局
明るい光が差し込み、優しい音楽が流れる薬局。
この薬局にあるお薬は『ありがとう』のみ。ただし様々な種類の『ありがとう』を取り揃えていて、患者の症状に合わせて処方してくれる。
例えば
『ありがとう↗︎』
『ありがとう⭐︎』
『ありがとっ!』
『…ありがとね』
などなど
※
ここには毎日のように何かに疲れた患者がやってくる。
「今日はどうされました?」
丸い黒縁の眼鏡をかけた女性の薬剤師は、疲れ切った表情のサラリーマンに尋ねた。
「このところ、仕事が山積みで、毎日残業続きなんです。体も心ももう限界で……」
「あら、それは大変ね。そんなあなたには『ありがとうーーー!』をお出ししておきますね。あとはしっかり休息も取ってくださいね」
「ありがとうございます。」
※
「あ、あの…」
高校生くらいの男の子が少し恥ずかしそうに薬局に入ってきた。
「どうなさいましたか?」
「……片想いに疲れて……」
「そうですか。ではどの『ありがとう』がいいかしら」
「……これ。ダメですか?」
男子高校生少し躊躇しながら指差したのは
『あ・り・が・と・う♡♡♡』
「あら、ごめんなさいね。これね、20歳以上にならないと処方できないの」
「そうなんですか。何でですか?」
「これはまだ君には早すぎるの。心がついていけなくなっちゃうことがあるのよ。なので……君にはこれがいいかな」
「これ片想いの疲れに効きますか?」
「最初はこれくらいがちょうどいいわよ」
「ありがとうございます。」
男子高校生は少し驚いた表情を見せたが、次の瞬間には晴れやかな笑顔を浮かべて薬局を後にした。手にした薬袋には『サンキュ♪』と書かれていた。
〈完〉
【解説してとはいう名の言い訳】
『この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。』
…と初めて記しておきます。
被りがないか調べていたら、富山県に実際に「ありがとう薬局」さんという薬局がありまして…。
「ありがとう」だけではないですが、少し疲れている時に感謝の言葉や優しい言葉をもらえると、気持ちが軽くなりますよね。そんな思いと高校生の時の思い出を織り交ぜながら書いてみました。
実は、他にも違うパターンのアイデアが浮かんでいるので、また今度書いてみようと思います。
『高校生の頃、好きな女の子と手紙のやり取りをしていて、♡があるだけで浮かれていた単純な者』
ミノキシジルでした。