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【掌編小説#14】『ただの友達』(元カレ)は引っ越しの手伝いをする
3ヶ月前に別れたはずの彼女から突然の連絡が来た。
引っ越しを手伝って欲しいという。
別れてからも食事に行ったりはしていたが、引っ越しの手伝いをお願いされるとは…。
「ただの友達に戻ろう」と彼女に言われて別れたものの、未練はもちろんあった。
別れを切り出され泣きながら受け入れたのだから。
あの涙は未練の涙、後悔の涙。
友達という心地良い関係から恋人になり、これまで心地良かったものを窮屈にさせてしまったのはきっと僕のせいだった。
そして彼女に別れを選択させた。
そんな彼女から突然の連絡が来た。
最近あまり深い話を聞いたりしてはいないが、引っ越しを手伝う「男」の存在はない。
少しホッとしている。
そもそも元カレだった「ただの友達」に引っ越しの手伝いをさせるだろうか?
僕の中の「買い物」や「食事」と「引っ越しの手伝い」は明確に違うと感じていた。
心のどこかでヨリを戻せる時が来るのではないかという期待感があった。
細々したものを段ボールに詰めて運び出す。
あまり大きくない僕の車に詰めて家と家を往復する。
何度往復しただろうか。
大きな家具は翌日業者に頼んでおり、それ以外の細かいものを、引っ越しで使うには不都合な小さな車で運んだ。
運んである間、楽しそうに話す彼女を見て、以前と変わらない感情があることに気づいた。
朝から何度も往復して、夕方頃にようやくある程度の目処が立った。
「今日はここまでにしようよ。あとは明日にする。ありがとね。」
「こんなもんでいいの?」
「うん。ねぇ。良かったうちで晩御飯食べていってよ。冷蔵庫ないし、食材もないから向かいのお弁当屋さんのお弁当をご馳走するからさ。」
「いいの?じゃあお言葉に甘えて。」
新しい家の目の前にあるお弁当屋さんで買い物をして部屋に戻り、2人で弁当を食べる。
明日からの予定を話しながら、悪くない雰囲気があった。
「ただの友達」じゃない雰囲気。
僕の口からは思わず言葉が飛び出す。
「ねぇ。ヨリ…戻す?」
「えっ!?」
彼女は箸を止め僕の顔をじっと見つめた。
その瞳には戸惑いが浮かんでいる。
少しの静寂の後に続く言葉は、僕のおごった心を打ち砕くのには充分だった。
やはり、元カノの引越しを手伝ったくらいで、ヨリを戻せるなんて期待してはいけない。
〈完〉
【解説と言う名の言い訳】
掌編小説14作目です。だいぶ前に書き終えていたストックなのですが、ずっとタイトルがしっくり来ないまま眠っていました…。
最終的にはラノベっぽいタイトルに落ち着きましたが、これが良かったのかどうかはちょっと自信がありません。
『すぐ何かを勘違いしてた者』
ミノキシジルでした。