ChatGPTでデータは人に近づいたが、まだまだ"許容"には至らない ── データとデザイン裏話#5
『データとデザイン』の裏話#5では、執筆している間に起こったChatGPTを取り巻く社会の変化について書いてみようと思う。
やはり一番の変化はChatGPTの登場だ。執筆を開始した2022年の12月に発表されたOpenAIのChatGPTは、皆が知っての通り、対話型の生成AIとして驚きの精度を持っていた。元々人工知能の分野は変化が激しいことから、本の中で言及するかどうか悩んでいたが、結果的に『人工知能とデザイン』という章を設けることになった。
2022年には画像生成AIであるStableDiffusionも発表され、生成系AIが世間で取り沙汰される中、自分が一番「これは!」と思ったのがGPTのBetaで公開された「Code Interpreter」であった。プログラムコードの生成が可能になるだけでなく、アップロードされたデータを読み解き、グラフ表示まで実現する姿に、本で語ろうとしていた未来の片鱗があった。
例えば上の結果は、「添付したファイルから土地の価格推定用のモデルをつくって」と投げ込んでつくられた重回帰モデルだ。この時点で、このエリアは平米が価格に正の影響を与えていることや、逆に駅からの距離が価格に負の影響を与えていることがわかる。ここには示されていないが、裏では各係数の統計的有意性もP値として計算されている。
作成されたモデルに対して条件を入れると、土地がお買い得かどうかが分かるわけだが、これまでPythonを使って重回帰分析のコードを書き下していたエンジニア視点からすると「やばい!誰でもできちゃうじゃん!」と思えてしまう。なぜなら、ファルを読み込んで、クレンジングして、重回帰分析を回すだけで、これまで相当な時間を取られていたからだ。
一方で、デザイナー視点からすると「え、難しすぎる……」と思えてしまう。技術的には、膨大な作業がスキップされているが、少なくとも妻が部屋の内見をしながら、適正な賃料かどうかを調べるようなレベル感ではない。そしておそらく、自分が横でGPTを使って計算をしても、出された数字を聞いて「それ本当なの?」と言って物件サイトを開くだろう。
この2つの目線の切り替えと、繋ぎ込みこそが『データとデザイン』において書かれているテーマであり、そこには手段が人工知能であるか否かは特に関係が無い。逆に人工知能が柔軟性を増して、社会に浸透すればするほど、デザイン側の視点が求められるだろう。書籍では人工知能をテーマにした章があるが、そこで語られているのは「結果に対する信頼」であり、データを扱う上では普遍的なテーマであると言える。