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良かったことだけ思い出す(新聞記者からの転職)

 この1年程続けているオンライン英会話サービスでは、仕事に関する話題がしばしば持ち上がる。「あなたの仕事は何ですか?」「なぜ、その仕事を選んだのですか?」。こんな簡単な問いにでさえ、最近の僕は答えに窮するようになっている。
 大学卒業後に7年弱続けた全国紙の記者を辞めたのは2020年9月末。記者の仕事は大好きだったし、会社の居心地も悪くなかった。ただ、自分の内側に広がる閉塞感を打破したくて、関心のあった開発途上国の平和構築に関する仕事に就いた。転職自体に後悔はない。問題解決の方法と英語を学ぶことができているからだ。これらは自分の糧になっているし、僕自身の世界を広げてくれている。でも、時折どうしても考えてしまうのだ。「記者を辞めていなかったら?」と。
 転職して知ったのは、結局どんな業界、組織に入ったとしても必ず不満が生まれるということだ。やっかいなのは、新しい組織に入って嫌な場面に遭遇した時にやたらと前の会社の良かったことばかり思い出されること。所属していた時は不満が次から次に出ていたくせに、辞めた後になるとそんな不満は彼方に消えて「悪くなかったな」と感じてしまう。重要なのは、どんな仕事や組織にも良い所と悪い所があって、その悪い所をどれだけ許容できるかがポイントになるのだと思う。そんな持論を展開すると、友人の1人は「恋愛と一緒だな」と笑った。
 人間は自分が現在置かれている環境について盲目的だ。恋愛では「もっといい人がいるかもしれない」とよそ見し、仕事では「もっといい仕事や自分に合った会社があるはずだ」と非凡を求める。遠くを見ている時ほど、自分の足元にあるものに気付けないのだ。
 人間は一隅を照らすことしかできない。僕の足元にあるのは、「メディア」と「平和構築」の二つ。これらを掛け合わせて何ができるのか。模索する日々が続いている。


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