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シマイ

本音を言うと、ほぼ毎日彼女のことが頭をよぎる。
頭の中を通過していく感情や思考は、どんなにあがいても完全に制御することはできない。次々と波のように押し寄せてくる考え事、心配事、他愛ない出来事、消し去れない過去。

全く接点のない場面で、それは突然当たり前のことのようにやってくる。
でも、もう当たり前じゃないんだってその度に言い聞かす。

あなたの心にも、私のことが静かに、執拗に、忘れてはいけないと鳴らされるアラームのように、現れることはあるのだろうか。

あなたは言った。
メンタルが弱い私の心配で親の頭はいっぱいで、メンタルを維持できている彼女のことは、大丈夫だろうと思いこまれて放置されている、と。

言われた直後は腹が立った。
訳がわからなかった。こちらの認識とあちらの見解が、あまりにも違っていた。

確かにそんな時期があったのは認める。
パニック発作を起こし、しばらく病んでいたことがあるのは事実だ。
親にはたくさん助けてもらった。

しかしそれはもう、10年以上も前の話だ。
今は私もとうに立ち直り、普通に生活している。
今ではもう両親は老い、今度は私が助ける番になっている。
たくさん助けてくれた恩は、返したいと思っている。

異国へ移住し、親への連絡も不定期で、あの子はこっちのことなんて忘れてるんじゃない、と言うのが母の口癖だった。そしてあまりにも連絡してこない彼女に対して、憤りと悲しさを感じていた。
時々母から連絡しても、当たり障りのないことばかりを語り、そんなことが聞きたいんじゃなくて、もっと心配事とか、今実際どう感じてるのかとか、何を思っているのかとか、本音を聞きたかったのに。
母はそう言っていた。
彼女は、私たちなんて必要ないのかな。
そんなふうに二人で話していた。

でも彼女からみれば、全く逆のことを想い、憤り、悲しんでいた。
どこでここまで行き違ったのだろう。
誰がどこで何を間違えたんだ。

「メンタルが弱い」の定義。

メンタルが弱い人は、ネガティブ思考で、何事にしても良かった部分は見えずに悪かった部分だけに注目する。

メンタルが弱い人は、自分の意見に自信がなく、他人の意見に流されてしまう。

メンタルが弱い人は、他人の評価が気になる。

私にはこのすべてが当てはまる。
メンタルが弱いということは、悪い思考の癖がついている、と言うこと以外の何物でもない。
そしてこの癖は、自覚して、努力すれば少しずつ改善することができるらしい。
自分の今までの経験から学び、気づき、今までも、これからも、この悪い癖を直していこうと思っている。

何が言いたいか。
私だって、自分にそんな癖があり、そのせいで生きにくく、苦しんでいたことに自覚がなかった。そんな自分の心配をさせてしまった親にも悪いと思う。だが、彼女に、親は彼女自身はそっちのけだった、と言われるとなんだか違うんじゃないかって思ってしまう。
私は両親に、彼女についての心配事もたくさん、たくさん聞かされた。
母は、彼女が異国へ移住した際、一緒に異国へ飛んで手伝いにいった。
彼女と父の大喧嘩が始まった頃も、話題は彼女ばかりだった。
母と私はあの頃、なんとか仲直りを達成させようと色々なことを試みた。
すべてうまくいかなかった。そして母は体を壊し、入院した。
何年も、話題はあなただったよ。

聞こえのいい比喩で表現してみる。
陰と陽で例えるなら、私は陰の人間であり、影の存在であり、月のように、太陽のような人間が近くにいれば私の存在は消えてしまうんだって、だからしょうがないよねって諦めていた。
そしてあなたの存在は、私にとってはギラギラと光る激しすぎる太陽であり、月である私の存在をかき消してしまう紛らわしい人間だった。
周りの人間の関心を引きつけていたのは、私ではなくあなただったよね?

そんなあなたが、私があなたに対して抱いていた感情と似たようなものを抱いて苦しんでいたことになる。

あなたにとっては、私が鬱陶しい満月だったの?
親の注目を一身に集める、醜い嫉妬の感情で自分を焦げ付きながら、夜の薄い影の後ろで泣いていたの?

もう、訳がわからない。
もう、考えたってしょうがないことを
私は今だに時々考えてしまう。
だってあなたはもう、私と関わりたくはないんだから。


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